〃 ページ33
しかし、その制止は間に合わず、カッターは赤い線を肌の上に作っていく。
プツプツと皮膚の切れていく感覚を覚えながら、その線の上に血が浮かび上がってくる様子を見た。
所々丸い形を作りながら滲む血は、つう、と肌を伝い床に垂れる。
赤い糸が、一つ増えた。
「それで、これが…」
「今、君に…寂しい思いをさせられたときのもの…だよ…♡♡」
声が震えたのは、痛みのせいか、興奮のせいか。
「ああ、ほら」
「俺がこうしたら、君はそうやって…」
「俺を見てくれるんだ」
君は、悲しそうに、怯えたように、心配そうに俺を見る。
その瞳にゾクゾクしながら、もう一度カッターを肌にあてた。
「もっと、見て、」
「俺のこと、ちゃんと、しっかりと、」
「俺だけを、その目に映して…!!!!」
カッターを持つ手に力を込める。
瞬間、
「ッ!!」
君の悲痛に歪んだ目が間近に迫った。
君はカッターを奪い取り、それを床に投げ捨てる。
そして俺の手を取ると、今にも泣きだしそうな声で、やめて、と震えながら吐き捨てた。
彼女の指先が切れて、血が滲んでいる。
「……はっ…」
それを見て、口元に笑みが浮かんだ。
「はは…ははっ、あははっ!!」
「…っ嬉しい…!!!」
「俺、今すっごく…幸せだ…!!」
「俺が傷ついているのを見て、こんなにも苦しそうにしながら、俺を心配してくれてる…!!!!」
「ああ、ううん、そんなことより」
「君が、自分を傷つけてまで、俺を守ろうとしてくれた…っ!!!!」
手を握り返して、苦しそうな君の目を見つめる。
君は、何度も繰り返しながら、傷をつけることをやめてほしいと俺に懇願した。
けれど、その声ははっきりと俺の耳に届くことはない。
今は、傷をつける云々より、
「やっぱり、君は俺を求めてくれるんだね」
「俺に、傍にいてほしいと思ってくれてるんだ」
彼女に引き止められ、守られ、彼女自身が苦しんでくれたことに対する幸福感で満たされていた。
「俺が傷ついて、そんなに悲しいの?苦しいの?」
「嬉しいなぁ…嬉しい、俺、君にそんなに思ってもらえて…」
血で濡れた腕で、君を抱きしめる。
「俺、今、幸せすぎて死んじゃいそう…♡」
「……はぁ…ずっとこの幸せが続けばいいのに…」
「…もっと、俺を求めて、」
「俺に傍にいてほしいって、俺がいなきゃダメだって、君にとって俺が全てなんだって、感じて?」
(早く、俺からの赤い糸に、埋もれちゃって…♡)
111人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
林檎麻(プロフ) - お久しぶりです...!!リクエスト受け取ってくれてありがとうございます..!!とっても満足しました!! (2017年11月7日 23時) (レス) id: 5f64ee0b75 (このIDを非表示/違反報告)
不雲綺(プロフ) - ミユティさん» こちらこそありがとうございました!これからも彼に振り回されてやってください(笑 (2017年11月6日 22時) (レス) id: ccdc96260d (このIDを非表示/違反報告)
ミユティ(プロフ) - 久々の小見川くん、とても良かったです!!!!!良く考えたら小見川君のリクエストはこれで二回目ですね笑リクエストに答えて下さり本当にありがとうございます! (2017年11月6日 21時) (レス) id: ffac928163 (このIDを非表示/違反報告)
ももか(プロフ) - 不雲綺さん» そうだったんですか、全然大丈夫です!これからも更新頑張ってくださいね (2017年11月3日 22時) (レス) id: fd489c71d0 (このIDを非表示/違反報告)
不雲綺(プロフ) - ももかさん» 申し訳ありません。この作品は今リクエストいただいてるものを書き終えたら更新を一時停止する予定でして…リクエストは受け付けておりません。説明文にリクエスト中止と表記しておらず、申し訳ありませんでした。 (2017年11月2日 18時) (レス) id: d72d593e93 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:不雲綺 | 作成日時:2017年8月29日 17時