カジノD,D (ページ1)

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プロローグ・カジノ店ページ1

カジノ店の一角に用意されているバーカウンターは、そこだけいつも特別な空気が流れている。それは別に空気清浄機を使っているとかではなく、他のギラギラしたフロアと比べ、休憩スペースも兼ねているここは、あえて暗い照明が天井に敷かれ、ゆったりとした音楽を流している為である。
　そこでグラスを拭いていたバーテンダーに、吸いかけの煙草を箱に戻しながら声を掛ける。
fk「あれ、ねえ舘さん、翔太は？カウンターにいねーけど」
dt「え、今日は朝からずっときてないけど？」
fk「うっそ、珍しくゲーム回してんのかな」
dt「俺はそう思ってたんだど……え、違うの？」
fk「あーいや分かった、あんがと、ちょっと行ってみるわ」
　そういうと、仕立てのいいスーツを着こなした男は、崩した襟を直しどこか表情を引き締めると、可憐に靴底を鳴らしてカーテンを潜った。

　煌びやかなシャンデリアに、豪華な部屋飾り、目がチカチカするような部屋の装飾、その場にいる男女はだれしもが美しい衣装を身にまとっていた。だが、西洋絵画のように煌びやかな世界は、この時代の栄華の象徴というには、どこか泥臭さが漂う。
　ここは一般社会の人間が足を踏み入れない、所詮は裏社会の世界である。とりわけこの場所、裏カジノと呼ばれる場所には怠惰な人生に刺激的なスパイスを求める客が大勢訪れる。
　そのほぼ中心、煙草の匂いを振り切るように歩きながら、このカジノのオーナーである深澤は人差し指と親指を動かし、耳に収まっている黒いイヤフォン……タイプの通話機器ボタンを数回押す。それが緑に輝くと、徐に話し出した。
fk「ねえ、翔太知らない？」
　ジジ、と白黒テレビをつけたような音と共に、鼓膜に響いたのはここのシフト・マネージャー阿部亮平のものだった。
ab「え、知らないよ、バーカウンターにいないの？今日はそこに配属してたはずなんだけど」
fk「それがいねーのよ、さっきから」
　はぁ、と乱暴に吐き出された息が重い。
fk「自分の島でディーラーやってんのかなって思ったんだけど、影も形もなーんもないのよ、あのシナモンくん」