EXOと神様の昔話 (ページ15)

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チェンくんとシンくん② ページ15

レッスン室について真っ先にAがやるのは掃除。
これは初めて見たときに驚いた。
踊るわけじゃなくても、これが習慣らしい。

止めても｢慣れてるから｣と返される。
まあその通り慣れた手つきでさっさと掃除を済ませちゃうんだけど。

しかも、掃除しながらずっと発声してる。

掃除が済んだらストレッチしながらまた発声。
声出しに全く余念がなくて、その姿を見たとき、彼が才能だけでやってきたんじゃないってことはよくわかった。

たとえそのもって生まれたものが大きくても、それに釣り合う努力がなきゃ使いこなせたりしない。

きっとベッキョンもそれはわかってるだろうから悔しいんだろうな。
あーあ、めんどくさいやつ。

Aの凄いところは、それだけの歌唱力を持ち合わせながら、人と歌う才能があるってところ。

個人の僅かなピッチの差、音感の幅、声質、歌い方の癖に、擦り合わせ、調和する実力。

…ほんと、ずるいなあ。

主旋律を歌う俺のパートに3度上でハモリを入れるAを横目に、そんなことを考える。

一緒に歌う時、自分が出した声とAの声が混ざり合って溶けそうな、震え上がるような、そんな感覚がある。

ユニゾンなんて、寸分の狂いもなく合わせてくるから、時々一人で歌ってるのかと錯覚しそうになるくらいだ。

歌の上手な人なんてたくさんいるけど、Aみたいなタイプは初めて会った。
というかそうそういない。

シン自身の歌はまるで包み込まれるようで、何も考えずにただ聴いていたくなる魅力がある。

それは誰かのためにある歌声だからだ。

献身的で、純粋で、まっすぐ。

人間は誰しもがそんなふうに歌うことが出来ない。

自分は歌が上手いと思ってた。
…いや今も思ってるし自分なりにプライドだってあるけど、上手くなればなるほど、人間は欲が出てくる。
ましてや俺たちはそれを仕事にしようとしてるのに、上を望まずにいられるわけが無い。

どうやったって認められたいし、もっと聴いて欲しいし、もっと伝えたい、もっとできる、もっと、って。

つまりは必ず欲を持ちながら歌うものなんだよ。
俺だってそう。
それが悪いわけじゃなくて、歌が好きだからこそ。

でもシンは違った。

天使が祝福するように。
そよ風が頬を撫でていくように。
母親が子供のために歌う子守唄のように。

ただそこに、歌がある。
誰かのために歌声がある。

聴いているだけで温かくて、切なくて、自分の中から感情が溶けていく感覚。

シンは特別だ。