検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:5,054 hit

Ephemeral ページ29

「アナ。ココアを淹れたから一緒に飲まないか。」

「ありがとう、セイバー。」

コトリ、と置かれたカップから湯気が立ち上り、一口飲めば心を安らかにする。程よい甘さと温かさに自然と顔が緩まる。
そんな彼女の様子に満足したのか、翡翠の目をした青年は目を細めた。

「どうしたの、急に。」

「なんだか難しい顔をしていたからね。君、昨日の夜からずっとしかめっ面なんだもの、少しは息抜きしないとね。」

「それは悪かったわ…。いえ、そんな大したことではないの……ただ、彼…ノアの事でね。」

「ノアードがどうかしたのかい?」

「彼、私の夢に出てくる男の子にそっくりなの。ただ違うのは、雰囲気と髪の長さだけ。」

「そうか。」

そう言って若い騎士はココアを口へと流し込む。カップを持って俯き、ぽつぽつと言葉を紡ぐ少女は、かなり珍しい。よっぽど彼と夢に出てくる男の子が似ているらしい。

「それなら、本人に聞くのが一番じゃないか?もしかしたら前は髪の長さが違ったかもしれないし。」

「えっ、あ、そ、そうね…でも、約束してしまったし…次会う時は敵同士よって………」

言葉を発した後、少女はいきなり顔を上げ、ハッとしたように目を見開く。

「約束……約束………?私、これ以前に約束なんてしたかしら…」

「三人で交わした以外の約束かい?してはいない筈だけど。」

「何か…何か忘れている…大事な事を……何だったかしら…思い出せない…」

「もしかしたら思い出してはいけない事かもしれない。アナ。少し落ち着いて、ノアードの所へ行こう。」

「ええ、分かったわ。」

このもやもやの原因が分かれば良いのだけどね、と零しながらココアを飲む。身体は温まるが、胸の中にある蟠りだけが氷のように溶けない。

セイバーは思い出してはいけない事かもしれないと言った。人間は自分にとって都合が悪い出来事をすっぽり忘れてしまう事がある生物だ。きっとそういう現象なんだろう。

夢の内容の概念を信じる質では無いけど、こうも頻繁に見る夢だもの、きっと何かあるに違いない。白い長い丈のインナーに黒いズボンという格好をした金髪の青年に目を向けると、彼はにこりと笑う。この笑顔で何人もの女性を骨抜きにしたのだろう。

私は少し、少しだけ、セイバーが羨ましい。すぐに笑顔を作れて、恵まれた体格をしていて、その上頭も切れる。丸首のインナーから見える鎖骨はとても色っぽい。
こんな完璧な人間に、私はなりたかったなと思った。

Visitor→←Psycho



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.2/10 (5 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
6人がお気に入り
設定タグ:Fate , サーヴァント , FGO
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:白咲 アオン | 作成日時:2017年12月11日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。