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「おい」
その低い声にハッとして振り返ると、そこには十にぃが立っていた。
丁度会いたかった人がいて、私はパッと笑顔になって言った。
「十にぃ!丁度会いたかったの!」
「あ?」
「これを渡したくて……」
そう言って私は綺麗にラッピングしたチョコを手渡す。
「おい、これって……」
「バレンタインのチョコ。
……十にぃ、もしかして甘いもの苦手だった?」
あまりいい反応が返ってこなくて不安になっていると、十にぃはふっと微笑んだ。
「いや……そういうわけじゃねェよ。
ありがとな」
十にぃはくしゃっと私の頭を撫でると、尋ねてきた。
「もう近藤さんたちには渡したのか?」
「お兄ちゃんには今渡したところ。
そーくんはこれからなんだけど……十にぃ、どこにいるか知ってる?」
「総悟ならさっきまで部屋にいたぞ」
「ほんと?ありがとう、行ってくるね」
そう言って踵を返すと、十にぃが「あ、あと」と言ったので振り返る。
「総悟に言っとけ。
始末書いい加減に出せってな」
相変わらずだなぁ、と微笑ましく思いながら、私は頷きを返した。
.
「そーくん?いる?」
そーくんの部屋の前で声をかけると、スッと障子が開く。
「……A」
そーくんは私がここに来ることを知っていたかのように私を見て名前を呼んだ。
「そーくん、いきなりごめんね。
チョコを」
渡したくて、という言葉はそーくんに腕を引っ張られて遮られる。
「あ」
そのままそーくんの部屋に雪崩れ込むようにして倒れ込む。
思わず掴まれた方と反対の腕を出すと、そーくんの硬い胸板に触れてしまった。
「っ……」
服の上からでも分かる筋肉に、否応なしに頬の熱が上がっていく。
「待ってたんだぜィ?」
「……え?」
思わずうつむけてしまっていた顔を上げると、そーくんの不機嫌そうな顔が目に入った。
「何で屯所に帰ってきて早々野郎どもの惚気話聞かされなきゃなんねェんでィ。
Aのチョコが美味かっただの何だの。
俺ァまだAからチョコ貰ってねェってのに」
(隊士の皆さん、そんなこと言ってたの!?)
ただ市販のチョコを溶かしてもう一回固め直しただけなのに……、と少し申し訳なさを感じてしまう。
「チョコ持ってきたんだろィ?」
「あ、うん……。
これ、そーくんに」
そう言って手にしていたチョコを手渡すと、そーくんは中を見て「食っていい?」と尋ねてきた。
「勿論。どうぞ?」
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赤羽@美羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!これからもよろしくお願いします♪ (2020年3月13日 9時) (レス) id: 8b3b438a89 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - めっちゃ面白いです!さっそくお気に入り登録しちゃいました!更新楽しみにしてます、頑張ってください! (2020年3月12日 14時) (レス) id: 319352fe0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:赤羽@美羽 | 作成日時:2019年9月11日 7時