* ページ37
「今日は局長さんたちは朝ご飯いらないって言ってたわよ?
確か、3人で朝から幕府のお偉いさんの接待だって言ってたわ」
「そうなんですか?」
(初耳……)
私が驚いて目を丸くしていると、おばさまは言った。
「遅くても夕方までには戻ってくるらしいわよ?
だから、心配しなくても大丈夫じゃないかしら?
きっとちゃんと渡せるわよ、チョコ」
クスリと笑みをこぼしながら言われ、私は静かに頷きを返した。
.
その日の夕方。
お兄ちゃんたちが帰ってきたと聞いて、私ははやる気持ちを抑えながら屯所の廊下を足早に歩いていた。
私はまず、お兄ちゃんの部屋に向かった。
「お兄ちゃん?入ってもいいかな?」
障子越しに声をかけると、お兄ちゃんの明るい声が返ってくる。
「Aちゃん?どうしたんだ?」
スッと目の前の障子が開いて視線を上げると、不思議そうな顔をしたお兄ちゃんが私を見下ろしていた。
「あ……あのね、今日はバレンタインでしょ?
だから、チョコを作ってみたの。
受け取ってくれる……?」
今更不安を覚えてしまい、言葉尻を窄ませてしまいながら尋ねると、お兄ちゃんは驚いたように言った。
「え?い、いいの……?!」
「うん、もちろん!
お兄ちゃんにはいつも優しくしてもらってるから……ささやかだけど、お礼の気持ち。
これからもよろしくね」
笑顔でそう言い切ると、お兄ちゃんはふわっと破顔した。
「そうか……そうかァ……。
嬉しいなァ……。
ありがとうなァ、Aちゃん。
ホントに嬉しいよ」
本当に嬉しそうにチョコを見つめながら言うお兄ちゃんに、私の心もふんわりと暖かくなっていく。
暫く「嬉しいなァ……」と呟いていたお兄ちゃんだったけれど、ふと気づいたように言った。
「……え?今日って、バレンタイン?」
「うん、そうだよ?」
思わず私もキョトンとして言葉を返すと、お兄ちゃんは「こうしちゃいられない!」と言って部屋に戻り、隊服から私服に着替えて出てきた。
「バレンタインなどという重大なイベントを忘れるとは……!
近藤勲、一生の不覚!!!」
そう言って廊下を走って行ってしまおうとしたお兄ちゃんは、途中で何かに気づいたように立ち上がり振り返って言った。
「チョコ本当にありがとう!
後で味わって食べるな!」
そう言ってにかっと笑うお兄ちゃんが眩しくて。
私は目を細めながら「お妙さァァァァァん」と叫びながら走っていくお兄ちゃんを見送った。
68人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
赤羽@美羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!これからもよろしくお願いします♪ (2020年3月13日 9時) (レス) id: 8b3b438a89 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - めっちゃ面白いです!さっそくお気に入り登録しちゃいました!更新楽しみにしてます、頑張ってください! (2020年3月12日 14時) (レス) id: 319352fe0b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:赤羽@美羽 | 作成日時:2019年9月11日 7時