二輪 ページ3
「伊東の思惑に気づいたテメェなら、危ねェってことは重々承知してたろィ」
「……」
そーくんの押し殺したような声が苦しくて、胸がきゅっと締め付けられる。
「医者が言ってた。
肺に汚ねェ空気が溜まってたって。
熱もかなり高かったって。
……テメェ、死ぬつもりかよ」
「……っ、ち、違っ……」
慌てて弁解しようと口を開くも、そーくんの大きな声に遮られてしまう。
「頼むからっ!」
思わずビクッと肩を揺らす。
「頼むから、死なねェで……」
弱々しくなっていく声に、そーくんをじっと見つめる。
「頼むから……自分のこと大事にしてくれィ……」
「……っ」
私はその声に動かされるように布団から這い出してそーくんの手を握る。
「ごめん……ごめんね、そーくん。
私は、大丈夫。大丈夫だよ、そーくん。
死なないから……もっと自分のこと、大事にするから……」
必死に言うと、そーくんはふっと身体の力を抜いて私にもたれ掛かってきた。
「っ……そーくんっ?」
驚きで声が裏返る。
しかしそーくんは気にも留めない様子で私のことをぎゅっと抱きしめた。
自分の鼓動が煩く高鳴り出しているのを感じながら、私はそーくんの広い背中に手を回す。
(もしかしたら、心臓の音聞こえちゃうかな)
それでもいいと思えてしまった。
ただただ、そーくんの腕の中が気持ちよくて。
今の私には、ただそれだけで十分だった。
.
お粥を食べてもう一眠りすると、空はもう紅かった。
(江戸に来てから何だか寝てばかりだな)
そう思いながら少し軽くなった身体を起こすと、障子の向こう側から小さく「にあ」と鳴く声が聞こえた。
(……猫?)
不思議に思って障子を開けると、そこにはいつぞやの白猫がいた。
白猫は私の姿を認めると、嬉しそうに足にすり寄ってくる。
私はその場に座り込み、ゆっくりと毛並みを撫でてやる。
(ふわふわ……。
どこかの飼い猫なのかな?
でも、首輪をしてないし……)
毛並みの良さに感心していると、「A」と声がかかり、私は顔を上げる。
「……十にぃ」
「何やってんだ?」
私の隣に同じようにしゃがみ込んだ十にぃが問う。
「猫を撫でてるの。
最近ね、この白猫が私の部屋に遊びにくることがあるんだ」
可愛いでしょ?と十にぃに顔を向けると、十にぃは小さく「そうだな」と呟いて白猫に向けて手を伸ばす。
68人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
赤羽@美羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!これからもよろしくお願いします♪ (2020年3月13日 9時) (レス) id: 8b3b438a89 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - めっちゃ面白いです!さっそくお気に入り登録しちゃいました!更新楽しみにしてます、頑張ってください! (2020年3月12日 14時) (レス) id: 319352fe0b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:赤羽@美羽 | 作成日時:2019年9月11日 7時