時間切れ ページ45
.
ろくに動かせもしない視界の隅を景色が滑って、やがて真っ赤な世界から真っ黒な世界に変わった。その瞬間、肺の中に冷たい空気が流れ込む。
「堀川、A!!」
「こっちだ国広!!」
膜が張ってしまったように上手く音を拾えない耳が、酷く懐かしく感じる声達を拾う。
「ここに寝かせてくれ」
「...っ、はい」
薬研に堀川が答えて、私の体が降ろされる。再び地面に横たわった時に見えた堀川の衣服は、私を抱えていたせいで血に染まってしまっていた。
「A、分かるか?今から応急処置するから少し我慢してくれ」
私を覗き込んだ薬研がそう言い、私の衣服のボタンを外していく。彼の推し殺せていない切羽詰まった声と表情に、自分はかなり危険な状態なのだと悟った。
それからふと、視界の隅に鮮やかな浅葱色が映りこんだ。
そう言えば、地面に寝かされているのに土の感覚がしない。もしかしてこれ、
「なんて無茶しやがんだA...!」
薬研の横から私を覗き込みそう言ってきたのは和泉守だった。案の定、その肩にはあのだんだらの羽織りがない。
...やっぱり、和泉守の羽織りだ。
堀川の服に付いた血を見れば分かる。かなり出血してるから、私の下に敷いてあるこの羽織りだって血が滲んでしまうのに。
いっつも服が汚されることを嫌うのに、こういうときばっかり優しいんだ、この最年少は。
「...っ、おい、」
引き攣ったその声は、鶴丸のものだった。
私の服を捲ったまま表情を固まらせた薬研が見える。その周りの皆も、同じような表情を浮かべていた。
視線は皆一点、私の服の下の素肌に注がれている。
「...なんだ、これ...この、火傷の痕...」
「今出来たもんじゃない、よな...」
絞り出すように薬研と鶴丸が言った。私はそれにただ渇いた笑いを零すだけで、別のことを口にした。
「...て、きは...っ、あの、ふたりは...」
「何体か逃げ帰っちまったが、あの二人は無事だ。二人んとこの大将に任せてある。他にも死人は出てない」
「とにかく今は帰城じゃ!こんのすけ、主とはまだ繋がらんのか!?」
鶴丸の答えにほっと息を吐くと、少し荒げられた陸奥守の声がする。
...千歳に、繋がってないのか。
「妨害術が掛けられてます!!今解呪しているので、Aさん、もう少し辛抱してください!!」
遡行軍は相当悪質ないじめをするらしい。友達出来ないよ。
まあ、今回は乗ってあげるけど。
「...もう、いいよ、こんちゃん」
.
248人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
狩歌(プロフ) - 作者さん» 私も作者さんのコメントで大泣きしました。ありがとうございます...!! (2020年2月14日 8時) (レス) id: 8b0337ee0c (このIDを非表示/違反報告)
作者 - 大泣きした…もうやばい…語彙力低下した… (2020年2月14日 1時) (レス) id: 514b4bbba8 (このIDを非表示/違反報告)
狩歌(プロフ) - かふぇいんさん» 告白されちった(違う)。そんなこと言っていただけて感無量です。ありがとうございます!リクエスト了解しました!もうしばしお待ちください! (2019年2月10日 22時) (レス) id: 8b0337ee0c (このIDを非表示/違反報告)
かふぇいん(プロフ) - 連続でコメントすみません…!夢主ちゃんの質問コーナーみたいな茶番が見たいです。ぜひお願いします! (2019年2月10日 22時) (レス) id: 67bbfad4af (このIDを非表示/違反報告)
かふぇいん(プロフ) - すき。すきです。すきしかでてこないです。これからも心から応援してますッ…! (2019年2月10日 22時) (レス) id: 67bbfad4af (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:狩歌 | 作成日時:2018年12月28日 13時