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家を出る前に、葛西に訪ねるのが毎回になっていた。
「……あいつは、今日も休みか」
「はい…あ、そういえば」
葛西がこくりと頷き、ハッとしたように顔を上げた。
なんだ、と眉をしかめると、心配したように口を開いた。
「須田様の手首に、赤いあざがあったんですよ!それを見て、苦しそうな…あ、私個人の意見ですからね?そういった顔をなさるんです」
「は?」
手首の、赤いあざ。
それは、誰でもない総一朗がつけたあざだ。
須田の華奢な手首を離したくなくて、荒い息でぎゅっと握りしめた時のあざだ。
それを見て、鉄仮面でも被っているのかと疑いたくなるような程、表情を変えない須田が、苦しそうな顔をした?
それほど、須田を傷つけたのだろうか。
総一朗が、おれが、須田を。
「須田の、……須田の所に、行ってくる」
葛西の静止の声も耳に入らない。
須田は、今何をしているのだろうか。
知的で、冷たささえ感じる瞳は、今何を見ているのだろうか。
細くて、なめらかで、何でもそつなくこなしてしまう指は、今何を触っているのだろう。
須田。須田。須田。
「須田っ……!」
須田の部屋の扉を勢いよく開けると、艶やかな黒髪を持った男が振り返った。
「総一朗、様…」
目を見開く。
その後、すぐに我に返ってかわいくない、いつもの顔に戻る。
「お行儀が悪いですよ、扉は丁寧に開けろと小さい頃あれほど…」
「須田」
総一朗が一歩進むと、須田が身体をびく、と震わせた。
心の中は罪悪感でいっぱいなのに、意識されているという事実が、どうしようもなく嬉しい。
「僕はもう、昔みたいに非力で無力で、小さな子供じゃないんだ」
須田の瞳が、揺れる。
総一朗が、扉を丁寧に、ゆっくりと閉める。
そして、ゆっくり、一歩ずつ、須田に近づいていく。
須田は、俯いたまま、総一朗を見ようとしなかった。
ついに真正面まで来て、止まる。
「……須田」
須田の顎に指先を滑らせ、何かを欲するような、甘く、低い声で囁く。
総一朗の指が、声が、須田に顔を上げろと声もなく迫ってくる。
須田が、顔を上げて、総一朗の瞳を見つめる。
「嫌か?」
総一朗の瞳は、いつもと違って熱っぽい。
まるで、あの日の様に。
答えずに、総一朗の頬に手を添えた。
それにひどく目元をゆるめて、須田の唇を奪った。
「ごめん。ごめん。でも、どうしたって、僕は須田が好きだ。
忘れることなんてできない。ずっと、好きなんだ」
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作者名:男主クリスマス合作企画 x他2人 | 作者ホームページ:http:/
作成日時:2018年11月11日 17時