酔狂な賭け事 椿 【BL】【男主】

第十七章 ページ18

極道*


裏社会はそんな生温い場所では無い――

それを知ったのは、まだ歳が十にも満たない頃であった。


俺は、訓練と称された「裏切者の処刑」で、初めて人を殺めた。

あの感覚は、何度思い出しても悍ましい。

今まで何人を切り、その脳点を鉛の玉で打ち抜いたか、その数は定かではない。

故に、その時の相手に対する情けや優しさは何処にもない。

それでも、あの「初めて」の感覚は消えてくれようともしない。

ただ、恐怖と苦しさと動悸で自分がどうにかなりそうだったのを鮮明に覚えている。


大人は、地にくたびれ果てたその骸を見て、手を叩いた。

「良くやったな」と俺を褒めた。

頬にかかった血が気持ち悪くて、手に残った「人を刺した」感覚が抜けなくて。

涙すら、溢すことはできなかった。


分かっている。

分かっていることだ。

樹が俺たちに辛く当たることは。

全て、何が理由なのか俺には分かっているんだ。

分かっていて、俺の力だけではどうにもできないことが一番腹が立つんだ。

だからせめて、彼らには俺のいる黒く汚れた世界を見ないように。

下らない極道の世界を生きなくていいように。

そう願って、俺は動くしかない。



「……この世界は狂っている」



「人質について」という議題について意見が飛び交う中。

俺は溜め息を吐いて、眉を顰めて目を閉じた。

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