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三話 ページ3

だからか。だから先輩はあんなにも念を押したのだ。
こんなことなら面倒がらずにちゃんと話を聞いておくべきだった。


「…777番。そんなに懲罰房に行きたいのか?」


あくまで俺は看守だ。囚人に隙を見せてはならない。
内心どきりとしてしまったが、それを上手く隠せただろう。できる限り平静を装り冷たく彼に言い放つ。

彼は一瞬だけキョトンとし、拍子抜けしたように目を丸くした。相手にしないのが意外だったのだろうか。

キョトンとしていた彼だったが、途端に整った顔がくしゃりと崩れると、喉の奥からくすくすと笑い声が漏れてきた。


「それは嫌かなぁ…彼処はつまらないんだ」


つまらないとか楽しいとかそういう問題じゃないだろう。
脅しに使っただけなのだが、今度はこちらが拍子抜けしてしまう。

懲罰房といえば、一人きりの狭い独房で誰とも接することなく、何をする訳でもなく、ただただ時を過ごすという刑を受ける場所だ。

そんな気が狂いそうになるところ、他の受刑者ならばまず泣いてやめてくれと縋ってくるのに。まさか脅しにもならないだなんて思わなかった。


やっぱりこいつはどこかおかしい。早くここから立ち去りたい。

今だされるがままになっている手を彼から振り払う。


「次はないからな」

「ありゃ〜看守さん優しいんだね!俺てっきり刑罰かと」

「黙れ」


半ば強引に言葉を遮る。これ以上ここにいたら俺はどうにかなってしまいそうだ。
そのぐらい俺は相手のペースに飲み込まれていた。


なんとなくすっきりとしないまま踵を返す。胸の内にしこりがあるようだったが、とにかく早くここを出たかった。

彼にはまるで逃げるような立ち去り方だと思われたかもしれない。

それでもこの息苦しい空間にいるよりはマシだと思うのだ。


「ねぇ、教えてよ」


後ろ背に声をかけられた。


「…あんた、名前何?」


女のように甘く鼻にかかったような声。それなのにどこか血のかよっていないように感じるその声で俺に問うた。


「篠原A」


ただ端的に述べただけだが、それでも彼はよかったらしい。
その証拠に、小さく、だが満足そうに笑う声が聞こえた。

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ネージュ@ちくわ同盟(プロフ) - 凄い好きです(語彙力) (2018年10月29日 18時) (レス) id: 4cedcbaa5d (このIDを非表示/違反報告)
- よき。すごくよき。 (2018年10月29日 13時) (レス) id: 700c135c09 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:空弥+怠惰 x他1人 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2018年9月17日 10時

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