第七話 ページ7
「A〜、飲み行こうぜ!」
「あー、今日はパス」
「えー、昨日は一緒に飲みに行ってくれたじゃん」
「お前の介護、二日もするの嫌だからな」
「介護っていうな、介護って」
同僚が個人的に飲みに誘ってきたが、介抱したくないからという理由で今日はそれを辞退した。
駄々をこねられたけど、「タクシー呼んだの俺だからな」と語気を強くして言うと、おとなしく引き下がってくれる。
鍵の入っていないポケットを寂しく思いながら、帰路を歩いた。
遠くから自分のアパートを見て、ぽつりぽつりと点いた部屋の明かりが虚しくも羨ましかった。
きっと、あの男は次の男の元へと去っただろう。
昨日のように人の家の扉の前に寝転がって、まるで「お利口」な猫のように甘い匂いをつけて啼くのだろう。
あの長いまつげを伏せて……。
きゅう、と胸が締め付けられる。
どうにもならないのに、そう分かっているのに。
息が苦しい。
柄にもなく、視界が歪んだ。
ポストの中身を乱雑に取って、階段を上った。
上司に怒られたわけでも、残業をしたわけでもないのに足が重たい。
もういい、今日の晩飯はカップ麺で済ませてしまおう。
自分の部屋の前にたどり着いたとき、ポケットに手を突っ込んだ。
「……嗚呼、今日はこっちか」
ポストの中身を漁る。
この中に鍵が入っている筈……。
「……ない」
アイツ、持って行ったのか!?
俺をそうやって騙すために家に来たのか!?
だったら、大家さんに連絡してみないと……。
……いや。
一階まで降りようとして踏みとどまった。
試しにドアノブを回してみる。
それは軽快にかちゃりと音を立て、その先に会いたかった人が現れた。
「遅い!
お兄さんの分まで夜ご飯作ったのに冷めちゃうじゃん!」
「いや、お前」
「朝は作ってもらっちゃったし、夜は俺が作ったんだよ!
……居候、させてもらう側でもあるし、さ」
嗚呼。
何だろう、この幸福な気持ちは。
「ただいま」
そう言うと裕翔はあの時のように優しく笑って。
「……お帰り」
誰かが傍に居てくれる。
その温かみが心地よかった。
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空弥(プロフ) - 桜坂さん» わああああ、よきですよきですっ。電車でイチャイチャしてるところめっちゃ書きたいです……。ありがとうございます、更新ゆっくりですが、お付き合いいただけると嬉しいです (2018年11月10日 21時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
桜坂(プロフ) - 以前コメントさせて頂いたものです!デートの案なのですが遠出して海を見に行くなどもいいのではないでしょうか?電車の小話とかも出来ますし、それとこれからもゆっくり頑張ってください (2018年11月7日 19時) (レス) id: 96c3d36cf4 (このIDを非表示/違反報告)
蒼紫(プロフ) - 希羽(  ̄▽ ̄)さん» 18↑のほうに書いてます。オブラートに包んでないので(汗)18になってからまた読みに来てください! (2018年9月9日 14時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
希羽(  ̄▽ ̄) - 第17話の間の話って、18↑ですか? (2018年9月9日 12時) (レス) id: 0d606e3b63 (このIDを非表示/違反報告)
希羽(  ̄▽ ̄) - もう最高ですぅぅぅ、、、。 私まだ18↑読めないんですよね、、、、。残念過ぎます、あと何年だろう。 (2018年9月9日 12時) (レス) id: 0d606e3b63 (このIDを非表示/違反報告)
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