I wish to be your only one … L.O.V.E

Precious Lover … ２９ ページ30

「すごい風だな…」

天気予報は、冬の爆弾低気圧到来を伝えてきていた、冬の嵐…窓の外に見える街路樹は、枝葉の揺らぎが風の勢いが増してきていることを如実に表していた

「樫原邸…大丈夫かな…」

定年後の住宅を依頼してくれたクライアント…
上棟式を済ませた直後だ…念の為にブルーシートは掛けてるけど、この大風で吹き飛ばされでもしてたら躯体が傷んでしまう、足場も…


低気圧は頭痛を誘発するのか、今日はいつもより痛みが強い…あさイチ飲んだ鎮痛剤は、もう効力を無くしかけていた

「なんで…だよ…っ」

容赦なく波のように繰り返す頭痛に、奥歯を噛み締め耐え続けるしかなく、ポケットに入れっぱなしの鎮痛剤を握りしめた

もう何箱目だ…クソっ、どうなってんだよ、オレのカラダ…

もう、倍量でも効かなくなってきてる…その事実がオレの背筋に冷たい流れを作る

でも、行かなきゃ…樫原さんご夫婦の大切な想い出を繋いでいく家、何かあったら…

刻刻と変化していく風の勢いに、居てもたってもいられず、タブレットを水で流し込みオレはデザイン室からフロアに出た

「チーフ！どこ行くんです？」
「樫原邸！様子見てくる」
「ええっ！風凄いですよっ、危ないですって！」
「だから行くんだよっ！」

引き止める永瀬くんと事務所の子達の声をシャットアウトして、オレは外に出た

風に煽られるように駅に向かう、タクシー乗り場は余り人がいなくて直ぐに乗れた、行き先を伝え発進する

「今日は1日こんな感じですかねぇ」
「そう、ですね…」

現場、どうなってるだろう…目印のコンビニを見つけ気持ちばかりが急ぎ足…

「着きましたけど、ココでいいんですか？」
「ええ、ありがとうございます」

お金を払って降りる間も、オレの目は躯体にしかいかない、ブルーシートは辛うじて躯体を覆っている、足場も大丈夫かな、とりあえずホッとした

雨足も強まってきた…中に染み込まないかな…

見回ろうとした時、軽トラックが止まった


「ようべっぴんオトコマエ！来てたのか？」
「長瀬棟梁？」

軽トラックから出てきたのは、城島工務店の長瀬棟梁だった

「風強くなってるし、気になってな、べっぴんが来てるとは思わなかった」

クイッと口角を上げる長瀬棟梁独特の笑い方、なんか安心する

「オレもです、上棟式済んだばっかだしもし何かあったらって…、棟梁、来てくださって助かります」

「おう、材木はどうかな…今回の材木問屋、いつものトコが店じまいししてな…」

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