I wish to be your only one … Re:turn ２

Re:５８ ページ10

｢葉山氏の夢は、学生の頃から一度も変わってない…自分の手でオペラハウスを作りたい…それはなぜだと思う…？｣

所長は、オレの中に答えがあることを見つけていた…

｢母さん……｣
｢そうだ、キミのお母さんが夢見てたオペラ歌手…けれど手離さなくてはならなくったその夢を、どうにかして叶えてやりたい…と考えたからだ、愛する人の夢を、絶対に自分の手で…ってね｣

｢愛する…人の…｣

｢だけど、オペラハウスは作りたいからと言っておいそれと作れるものではない…増してや新人の建築家が手を出せる領域じゃないんだ…葉山氏はコツコツと日本で実績を上げていった、それこそ寝る間も惜しんで、必要な知識と技術を習得し、自分の知名度を上げるために数多くのホールや美術館の建設に携わった…君の言う、家族を省みない生活になって行った…だけどね、葉山氏の心はいつも君とお母さんの元にあった、葉山氏が私に見せてくれた君の成長のアルバムには、葉山氏のデザインした建物が隣のページにあっただろう？見たことはある？｣

｢ありますが、アレは母さんが作ったんじゃないんですか？｣
｢違うよ、アレは葉山氏が作ったんだ…キミのお母さんが送った写真を嬉しそうに見ながらアルバムに貼っていた…いつかオペラハウスを完成させて、3人で暮らせるようになった時、君に見せたいと言っていた、君の成長とお母さんの夢を実現させることが葉山氏の原動力だった…｣

そんな…だったらオレは…

｢君は、お母さんの死に際に会いにこなかった葉山氏を最低だと言うが、葉山氏に帰らなくていいと伝えたのは、君のお母さんだ…自分に何があってもオペラハウスを完成させるまで戻らなくていい…あなたの夢はこの先もずっと私の夢だと言ってね、だから葉山氏は完成まで戻らなかった…君には辛い経験をさせてしまったけどね…見せてあげたかったと思うよ…一番最初にユリを舞台に立たせてやりたかった…無念だ…と泣いていた……｣

｢そんな…父さん、そんなコト一度も…｣

オレが母さんの最期に間に合わなかった父さんを罵った時も、一言も何も言わなかった…

ユリの花を抱いて、母さんの遺影をずっと見つめていた…


｢葉山くん…愛には色んな形がある…求める愛も奪う愛も…けど私は、一番尊く美しい愛は《見守る愛》だと思うんだ…君のお母さんは葉山氏をずっと見守っていた、それは姿が無くなった今でも変わらないと思う…君には、もう葉山氏を許してあげることは出来ないか？｣

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