君想う夢・君恋し花 …６

愛を彷徨う人 … ５５ ページ24

「…まだ起こさなくてもいいか…」

傍らで眠ってる宏光の頬を手の甲で撫で、身支度を整えるとオレは部屋を出た

アイツに一言言っとかないとな…


「皆川、オレだ…」
そのまま皆川の部屋のドアをノックすると、直ぐに扉が開いた

「太輔様…、何か御用ですか？」
「お前に頼みがある…」

「頼み…？」

「もうこれ以上宏光追い込むようなコト、しないで貰いたい」

ピクっと皆川の目許が反応する、ムッとした表情を隠そうともせず、オレを見返した

「私が宏光様を追い込む…？そのような覚えはありませんが… 」

シレッとそう言い放つ皆川に、オレは苛立ちを覚えながら言葉を続けた


「してるだろう？、‪α‬を産めだのなんだの…、挙句宏光が誰かと不適切な関係を持ってるような言い方…、それがどれだけ宏光追い込んでるか、お前には分からないのかよ？」

「ああ…その件ですか、別に私は追い込むつもりはありません、宏光様が太輔様以外の方と一緒にお車に乗られていたので、お尋ねしただけです、…あの方、前に太輔様に会いに来られた方ですね…」

「そうだ、よく覚えていたな…、…あの人なら心配ない」
「なぜそう言い切れます？失礼ですが、宏光様は廓で花魁まで登り詰められた方、多くの旦那衆から今も贔屓されていてもおかしくはありません、今も太輔様以外に心を通じてる方がおられるなら、それは大問題かと…」

大事な人にそこまでの疑いを掛けられて、オレも黙ってはいられない

「宏光は、山下智久の腹違いの弟だ、勿論山下氏もソレを知ってる、あの二人が情を交わす事は絶対に無い」

その事で、宏光はカラダにも心にも大きな傷を負った…その背景を思えば、痛ましいとしか言えなかった

「弟…？そんな事はありません、山下の家には男子はお一人だけのはず」
皆川の顔に、不審感が浮かぶ

やけに詳しいな…

「宏光は元々オレと同じで、山下氏の父親と妾の間に生まれた子だ、確かに当時は外腹の子だったけど、今は宏光の母親は正式な後妻として山下の家に入ってる、実子なのはDNA鑑定でも証明されてる」

「ですが宏光様は、廓でお育ちになられたのでは…」

「ソレは…まだ宏光が赤ん坊の頃に何者かに連れ去られて、廓の前に置き去りにされたからだ、恐らく、出生後の診断でΩだと判明して、家名には相応しくないと実の父親に謀をされたんだろう、当の本人はもう亡くなられているから真偽の程は不明だが、酷い話だな……、皆川？」




「…連れ…去られた…？…」

愛を彷徨う人 … ５６→←愛を彷徨う人 … ５４※

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す