心地の良い時間 ページ4
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意識の浮上を感じて、ゆっくりと目を開ける。繰り返し瞬きをすれば、さっきのは夢だったのだと理解する。
周りを見れば目に入ったのは変わらず灰色で、いくらここが気に入っていても、色合いという意味で少し沈んだ気持ちになる。
「起きたのか？」
『うん。おはよう、クロロ。』
「ああ、おはよう。」
寝ぼけ頭で考える。あの時の彼はもう少年なんて歳じゃなくなって、大人になった。青年というのが正しいだろうか。
黒髪も少し伸ばすようになったし、声も少し低くなった。体もずいぶん大きくなって、眠いといえば膝を貸してくれる。
そうして少し、頭を撫でてくれるのだ。ちょうど今みたいに。眠る時、起きた時、いつも撫でてくれるから、私はこれなしではすぐに寝付けない。
寝ていた時の体勢を少し変えて、仰向けになって彼を見る。当然本を持っているから、私には表紙しか見えなくて。
体勢を変えたことで、私の頭を撫でていた心地いい手は行き場をなくして，代わりに本のページをめくった。
私はこの、目覚めたばかりの静かな時間が好きだ。誰にも邪魔されない、2人だけの心地よい時間。
別に大したことじゃない、このささやかな幸せが、私はずっと欲しかったのだといつも思う。
トントン、と目の前の本を叩けば、彼はそれをずらしてこちらを見てくれるものだから、あっちに行こうと指をさして誘う。
別に、私も一緒に読みたいから、横長のソファから大きめの円形に移動したいだけだ。広い方がくつろげるというだけで、他意はない。
「…今日は移動だ。」
『ん、わかった。』
私の誘いはすぐに一蹴されて、少し寂しい気持ちだ。
引っ越しだ。
次の仕事のために、拠点を移動させなくちゃいけない。
私たちがくつろいでいる拠点の家具は、主に私の能力によるものだ。睡眠をとっている時のオーラの回復で顕現には事足りるから、出しっぱなしでも構わないのだけど、回収した方が足もつきにくい。
ソファから飛び起きて、クロロが立ったのを確認して指を振る。
『
凍てついた空気が漂い、氷の図書は姿を消して、先ほど座っていたソファも何もかも、砕け散って私の手元に戻る。
『いいよ、いこう。』
とられた手を見つめて、ニヤつきを抑えながら歩く。
ムリヤリは好みじゃないけれど、優しく手を引かれるのは、とても心地良いから。
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作者名：楓 | 作成日時：2023年8月13日 3時
