月下美人の君.8

愛別離苦 ページ6

信がAに伸ばそうした手は、空中を彷徨って握り潰された。今彼女を苦しめている原因が、自分だと思うとどうしてもやりきれなかった。


そこに、羌瘣の身が危ないと騒ぎが起こる。


真っ先に向かった信と共に、私も行かないと…



瘣を守ってあげないと……。


力が入らずフラフラする体が、
再び地面に崩れ落ちる。


輪虎の死の悲しみに、

心と体が追いつけない…。


そこに、Aの腕を支えた人物がいた。



魂の抜けたようなAの瞳に、

少し光が戻る。



A「………じい様」




朱龍 「…A、無事か…？」



力強く抱き上げられ、やっとのことで
地面に足がきちんと付いた気がする。


震える体を鎮めようと、
両手で自分を抱きしめるが…


嗚咽が止まらなず、また手を噛んで
涙を噛み殺した。



朱龍 「やめなさい…。


この人を大切に想っていた思いを

無理に捨てる必要はない。





…だが、今は戦争している真っ只中だ。
今この時も、味方の兵が倒れていく。


立ち止まるか、進むか……選べ」




現実は残酷だ。


戦なんて嫌いだ。


どうして、私の大切な人を奪っていくのか。


…許せなかった。



この以上、奪われてたまるか……っ。



一歩。



ようやく踏み出した足は、確実にAに
戦う炎の火種になった。




最後に振り向いて、輪虎の亡骸を見る。

持っていた布で、その顔を綺麗に拭いてあげる。




いつも笑ってくれた…


その笑顔がもう見れないなんて…。



引きずられそうな悲しみに、

別れを告げるように




最後にその唇にキスを落とした。



「…どんな時でも、君を見守っている」



その言葉を宝物のように胸にしまって、


羌瘣の元へ馬を走らせた。

⭐⭐

そこには、信の姿はなく魯延達に
手当されている羌瘣の姿があった。


もう……これ以上

大切な人を失いたくないAは、
転がるように馬から降りて、羌瘣の元へ走る。



A「…ッ…瘣っ！

生きてて良かったっ……！」


震える手で羌瘣を抱きしめる。

血が服や顔を濡らそうと構わなかった。

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