月下美人の君.8

悪夢 ページ15

山陽での戦に決着がつき、武功に貢献した胡蝶隊も帰国の帰路を辿る。…だか、戦が終結したその日からAはずっと寝込んでいる。

荷馬車で運ばれる彼女は、武神の力の解放した影響なのか高熱を出してうなされていた。…心配した蒙恬と信もその手を握り、額に冷たくした布を交換するなどして、彼女が一日でも早く回復するように毎日見舞いに来た。

蒙恬 「……A」

戦に勝ってもお前が居なきゃ意味ない…。
普段から色白の手は、本当に生気がないように
より真っ白く見えて…

蒙恬は怖くなって、ずっとその手を握っていた。
辛そうに熱にうなされ、
真っ赤になりながら汗かくA。

少しでも楽になるように、着物を脱がせて
汗だくの体を拭いてあげた。

⭐⭐

夢を見た。
今回はいつもの違うものだった。
それでも、私を苦しめる物には変わりがないが…。

自分ではなく誰かの記憶。
誰かの体験をまるで自分自身が
味わっているかのような追体験だ。

迫り来る数え切れない男の手に、衣服は引き裂かれ
身動きも拘束され、髪も引っ張られる。
地面に押し付けられ暴力の限りを味わい、尊厳も何もかも奪い取られる。

痛みも、肌に男たちの舌が触れる感覚も、
爪がその肌に食い込む感覚も全て本物のようだった。

代わる代わる男たちが入れ替わり、
その度に感情が死に、涙が枯れていった。生きる意味もなくしかけた時…眩しく光る方向から手が差し伸べられてくる。また、違う男から乱暴されると、身を硬くしたAだが、その手の主が呼ぶ名前は…明らかに優しい声だった。


声 「…灸…灸…」


A「………？？」

それは、母親と同じ名前だった。
その手を掴もうと手を伸ばす…。
やっとこの地獄から抜け出せると思ったら、

よく知る彼の声が耳に届いた。


蒙恬 「…A…Aッッ！！」




A「っ！！………恬っ」


完全に意識が覚醒すると、目の前には
手を握ってくれる蒙恬と、ガタガタと荷馬車に運ばれる音が聴こえる。


蒙恬 「良かった…！意識がやっと戻った！





A……どうしたの？悪い夢でも見た？」


生理的なのか流れる涙と、震える手。

今まで熱にうなされるように、真赤な顔に
汗が流れる彼女は、不謹慎だか欲望を掻き立てられる。




そんな胸を暴れる獣を必至で殺しながら、


蒙恬は慰めるように、

Aの頭を優しく撫でた。

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