106 ページ13
＊
もうすぐ今年も終わりそうな12月末。
「なぁ、正門きた」
お昼すぎまでのバイトを終えて従業員入り口を出ようとしてると、大吾さんがバタバタと追いかけてきた。
「…え？」
ぎゅっと胸を締めつける名前に、驚いて振り向くと
「正門。今、店内で座ってる。俺もあがらせてもらうからAも会ったら？」
大吾さんは、自分のエプロンをほどきながら淡々と説明する。
「なんか地方イベントでこっち来てんねんて。すぐ帰るらしいけど」
音楽をきいたり、映像を見たりはしてるけど、正門さんに実際に会うってなると、よくわからない感情でいっぱいになる。
しかもこんな心の準備なしに。
「Aがいややったら、断ってくる」
大吾さんはわたしの表情を察したのか、やるせなさそうに微笑んだ。
「いや、じゃぁ先に行ってますね」
わたしは自分を奮い立たせて、ちょっぴり強がって微笑み返した。
お客さん用の入り口から入り直すと、変わらない金髪の後ろ姿が座っていた。
すっと引き戻されるような感覚が走って、心臓が痛い。
なんて話しかけよう。
うまく話せるかな…
緊張に包まれながら席に近づいて
「正門さん？」
メニューを眺めてるたくましい背中に声をかけると
「Aちゃん。久しぶり」
顔をあげた正門さんは優しくにっこり微笑んでくれて、ふわりと緊張が解けた気がした。
「で、大吾の彼女はどの子なん？」
「あー、うん。今日はおらへんよ」
合流した大吾さんと3人でファミレスの席に座ると、なんか懐かしさを覚えてしまって、歳をとった気がする。
「なんや、残念やなー」
正門さんは口をとがらせて店内を見回した。
「ていうか、この前、別れたからもう彼女じゃない」
「えー！？」
「えー！？」
わたしと正門さんの声が重なる。
「君たち、声がでかいねん」
「きいてへんやん、なんで？」
「わたしもきいてないんですけど」
「うん、言うてへんもん」
大吾さんはぐいっと烏龍茶を飲み干すと、逃げるように立ち上がってドリンクバーの方へ歩いていってしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 584人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Bear(プロフ) - 最後に涙腺が崩壊しました。こんなに最高な作品にはしばらく会えなそうです (2021年12月14日 22時) (
レス) @page45 id: 3daf0f2645 (このIDを非表示/違反報告)
むたむた - どんでん返しに泣きました。夜通し読んじゃいました。ステキな作品をありがとうございます！！！ (2021年6月3日 4時) (レス) id: 738b505511 (このIDを非表示/違反報告)
林芽亜里 - 一気に完結まで読み尽してしました！！もう素晴らしすぎて(*´∇｀*)最初は、正門くんとハッピーエンドを迎えると思っていたけど、大吾くんと最終的に結ばれて、思ってもいない展開でビックリしました(^｡^)幸せな時間をありがとうございました(#^.^#) (2020年5月27日 22時) (レス) id: 9f77b0a91a (このIDを非表示/違反報告)
あおい(プロフ) - もう最高でした！！大好きなまさにしのお話ってだけでも嬉しかったのにこんな素敵なお話、もう最高すぎました！この作品の大ファンになりました！！楽しい時間をありがとう！また書く機会があったら楽しみにしてます！！ありがとうございました！！ (2020年4月26日 19時) (レス) id: db8a594314 (このIDを非表示/違反報告)
はつね(プロフ) - 初めは正門くんとエンド迎えるんかなって思ってたんですけど最後西畑くんと幸せになっててびっくりとよかったなって涙出ました！！ (2020年4月15日 23時) (レス) id: ee2a92e956 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：華音 | 作成日時：2019年5月16日 22時
