君へのSong (ページ47)

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「お誕生日おめでとうAちゃん。もう一曲きいてくれますか？」

真っ直ぐな瞳がわたしを捉えて、こくんと頷くと、

「さすがに歌うのは恥ずかしいからメロディだけやねんけど、Aちゃんにつくった曲です」

照れくさそうにギターに向き直る正門さん。

「ちょっとだけ待ってください！」

わたしはスマホを取り出すと、レコーダーの録音ボタンを押した。

「え、待って。恥ずかしいやん」

「いいんです！絶対流出させませんから」

照れ隠しに笑うと正門さんは、

「しゃーないなぁ」

って笑いながら、弦を弾き始めた。

わたしのために正門さんがつくってくれた曲。

優しくて儚いメロディラインが、澄んだ冬の空気に溶けていく。

リズムとともに揺れる金髪の前髪も、

音楽を紡ぐ右手も、

今はわたしだけのものなんやろうか。

少しうつむいて微笑みながら愛おしそうにギターを奏でる横顔は、

きっと、世界一かっこいい。

弾き終わるとわたしは涙をこらえながら停止ボタンを押して、

「ありがとう…ございます」

控えめに、でも気持ちはめいいっぱい、小さく拍手した。

「こんなんでごめんな」

謙遜する正門さんに、わたしはふるふると首を振る。

「正門さんの音楽が1番好きだから、1番うれしいです」

「ありがとう」

正門さんはギターを横に置くと、そっとわたしの肩を引き寄せて顔を覗き込んでくる。

「でもちゃんとお給料もらえたら、かわいいもん買わせて」

「いいですよ。そんなの」

「いややねん。俺だって洒落たもんあげたい」

口を尖らず正門さんは子どもみたいでかわいくて、思わず笑ってしまう。

「大吾の口紅はつけやんといてって言ったら怒る？」

正門さんは親指でわたしの下唇を撫でてくる。

それって嫉妬っていう感情ですよ…

「そんなん、まるで」

彼氏みたいじゃないですか？

少し顔をあげて目が合うと、続きの言葉を塞ぐように唇が重なる。

いつのまにかぐっと引き寄せられた体は、たくましい腕の中に包まれて、

何度も何度も降ってくるキス。

大好き。

大好きです。

心の中で呟く言葉が伝わりますように。

名前とか、立場とか、関係とか、そんな邪魔なものはなくても、

わたしはこの人を好きで幸せで。

この人の音楽と腕に包まれて、

たぶん、愛されている。

この時はまだ、世間は絶え間なく紡がれた曲の綻びをあげつらおうとしていたことにわたしたちは気づきもしていなかった。