君へのSong (ページ30)

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＊

大吾さんは家の前までわたしを送ってくれた。

「ほんとに、ありがとうございます…」

「ええよ。別に」

わたしより悲しそうな顔で力なく笑う大吾さん。

「…お茶でも飲んで行きませんか？」

迷惑に決まってるのに、ひとりになりたくなくて、わたしの口は勝手にわがままを言った。

大吾さんは口を半開きにして目をパチパチさせている。

「バイトロングで疲れてますよね！ほんとすいません！」

また瞳が潤んできて無理やり笑おうとすると、

「わかった。じゃぁ先入ってて。腹減ったからコンビニ行ってくる」

大吾さんはにこっと笑うとくるりと背を向けた。

昨日からのファッションショーの残骸を隠して、コーヒーを淹れていると大吾さんが戻ってきた。

「こんなんしかなかったけど」

マグカップを2つ持って行くと、大吾さんはコンビニの袋からロールケーキを2つ取り出して、ローテーブルに置いた。

「まだ間に合ってるやろ」

壁の時計は、

誕生日が終わるまであと1時間を切っていた。

「20歳のお誕生日おめでとう、A」

あったかいマグカップで乾杯すると、

大吾さんはにっと笑って

「食べよ」

とフォークの袋を開けていた。

どうしたんやろ…

またよくわからない涙が溢れてきてしまう

「もう泣くなよ」

「ごめんなさい…」

しゃくりあげていると、

「泣いたらAの分も俺が食べる」

大吾さんのフォークが伸びてきた。

「…えー！だめです！」

甘くてしょっぱいクリームが口の中に広がる。

「もーらいっ」

「あっ！そこクリームのとこー！」

「あったかくして寝るんやで」

大吾さんは玄関で靴を履きながら母親みたいなことを言う。

「はい。大吾さん」

男の子にしては小さくて、

でも甘えてしまいたくなる背中に、

「ほんとにありがとうございました」

お礼を言う。

「正門には俺からも言っとくけど、明日ちゃんと怒ったれよ」

「…はい」

正門さんの名前に胸がぎゅっと苦しくなる。

思わずうつむいてしまって、顔をあげると、

「これ誕生祝い」

綺麗な小さな紙袋が目の前にあった。

「え…」

「じゃぁな、鍵閉めろよ」

大吾さんは目も合わさずに紙袋を押し付けて出て行ってしまった。

包みを開けると、

シャネルのロゴ。

今はもうポーチの底にある真っ赤なリップと同じ蓋をあけると、

やわらかい桃色のパールが艶々ときらめいていた。