8.生 ページ8
「夜野さんは、俺に殺して欲しいと頼んだけで、何も教えてくれなかった。せめてさ、死にたい理由を教えて欲しいな。」
やめてくれ、こちとら最後の晩餐なんだぞ。日は沈みきりそうだが、晩餐と呼べるほどの時間ではないし、豪華な食事じゃないけれど。最後の食事くらい、美味しく食べさせて欲しい。そんな質問、不味くなる。
だけど、答えない訳にはいかなかった。彼に向き合わなきゃ、と思ったから。だから、自分の思いを、時間をかけて、ゆっくりと言葉にした。
「生きるのに、疲れたから」
「うん」
「…何もないから」
「うん」
「誰も、見てくれない」
「うん」
「このままの自分でいるのが、辛くて、惨めで、どうしようもなく嫌で、でも何も変えられなくて。1人じゃ何も、変わらなくて。」
ぽつり、ぽつりと吐き出した感情は大きくなって、止まる所を知らなかった。ずっと抱え込んでいたものが公になる。自分でも気づかなかったような感情まで出てきた。
「うん、そっか。わかった。話してくれてありがとう。夜野さんが楽になるなら協力するから。」
だから、大丈夫。そう言って彼は先にお会計して外で待ってるから残り食べたら外に来てねと言い残して、レジへ向かっていった。
溶けきってふにゃふにゃになったコーンフレーク、冷めたアイス、酸っぱく感じたストロベリーソース、最後に口にした物は美味しさを感じなかった。
…全部本音だった。初めて人に話した。自分のことは自分が一番わかっていたけれど、ここまで追い込まれていたことは知らなかった。案外話してみるものだ。さっきのことは、この後殺されてしまうわけだし、彼の中で記憶として残るだけ。それも時期に薄れてしまうのだろうから、墓場まで持って帰るのとさほど変わらないかな。
私は、彼に殺されたい、彼になら殺されてもいいって思った。だからあの時頼んだ、殺してくれと。でも、私は私を殺して欲しいんだよ、古森元也くん。
その意味、わかってくれてるかな。
「…おまたせ」
「おー、それじゃあまた着いてきてね」
よっ、と鞄を持ち直して歩き出した彼の背中は随分と大きく見えて、私は咄嗟に裾を掴んだ。
「どうしたの?」
くるり、と私の方を向いた彼がやっぱり輝いて見える。眩しくて、下を向いた。
「…死にたく、ない。」
喉の奥から絞ったように出たか細い声は彼に届いただろうか。
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あのね(プロフ) - 面白かったです〜〜!素敵な作品ありがとうございます!! (4月16日 21時) (レス) @page12 id: 695de6ced5 (このIDを非表示/違反報告)
匿名482 - 面白かったです (2022年5月7日 23時) (レス) @page12 id: e922a09c70 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うみね | 作成日時:2020年5月31日 19時