夜殺し【古森元也】 (ページ2)

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2.私ページ2

ふざけんな、自分がやりたくないからって人に押し付けるな。考える気もないくせに、公平に決めるべきだ、なんて言ってやれたらどれだけ良かったか。私は下を向いて拳を作った。ここで言い返せない自分が悔しい、だけど仕方がない。私は、光になれないから。ひっそりと、ジメジメと、影で生きている人間。

自分を客観的に見たら私は「夜」に該当する人間だ。しかも、真っ暗闇の。光ひとつない夜だ。さっぱりとした光が照らす清々しい「朝」でもなく、気温も上がって元気な太陽が地を照らす「昼」でもなく、オレンジの光で人影を映す「夕方」でもない。自分には、一切の光がない。そんな人間には誰も近づかない。近づかれない。触れたら吸い込まれそうな雰囲気は流石に纏ってはいないとおもうが、それ以外は案外一致しているんじゃないかと思う。現に私は独りだ、惨めだ。光がいたら私は輝けるなんて確証はどこにもないから、もしかすると私より夜の方がましかもしれない。

では次に、3班。先生の声が聞こえて、渋々立ち上がった。目の前に書いた文字を組み合わせて発表しきった。前の1班2班は案の定、在り来りな答えだったから、私の発表は少し、いやだいぶ気味が悪かったと思う。私は重力に従って腰を落とした。そして、また下を向いた。

私の後の発表もやっぱり同じようなものばかりで、退屈だった。あーあ、馬鹿正直に発表しなきゃ良かった。みんなにあわせとけば良かった。そんな後悔に苛まれていると、最後の班の発表で立ち上がった人物が言った言葉が耳にスっ、と入り込んだ。

「夜と聞いて浮かぶのは悲しいイメージです。」

思わず顔を上げて、発表者の方へ目線をやった。あの人は、確かバレー部の古森元也だ。クラスでは私と正反対の人間。人気があって、いつも誰かに話しかけられている姿を見かける。

「これ、班の意見じゃなくて俺の意見なんですけど…。夜は、暗くて、不気味だなって思うけどどこか悲しさを感じます。だけど他の班の発表を聞いてて、星とか、月とかと共存することで、輝ける素敵な存在だなとも思いました。」

抽象的な発表だったけれど、私はなるほど、と納得した。と、同時にやっぱり彼は私と正反対な人間だということが分かった。私は、光がないと輝けない惨めなものだと言ったのに、彼はそれがあれば輝ける素敵なものだと言った。

私はそれに、心打たれた。

3.彼→←1.夜