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「いらっしゃいませ」
俺が足を運んだのは小洒落た雑貨店だった。
自然と、身体がここへ向かっていたのだ。
なんなら百均でもネットでもいいはずなのに。
ディフューザーのいい匂いで少し癒されながら手紙類が置いてあるコーナーへ行く。
「…はあ」
幾度目かのため息。
俺が返事をしたとて、返ってくるか分からないのに。だって1年以上も音信不通だったんだ。
気まぐれで送ってきた手紙かもしれない。もう俺に手紙を送る気は無いのかもしれない。
忙しいからってメールくらい送れるよな…。
文面からして大変さは感じなかったし、またせた俺への気遣いも…なんて言ったらわがままで軽率かもしれない。
…いつでも俺の所に帰って来れるように、引っ越さなかった俺も俺だけど。
付き合いたての頃はこんな気持ちになるなんて思ってなかったな。
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これは俺が大学生だった頃の話
今の実況スタイルとは想像もつかないくらい私生活では大人しくてガリ勉だった俺は、基本家か図書館に居た。
図書館ではいつも決まった席で勉強。
中々人が座らない、棚の影の席は1番集中出来る俺のお気に入り。
そんなガリ勉生活を続けて、大学3年の秋の事だった。
いつも通り俺のお気に入りの席に向かうと見覚えのないトートバッグが置いてあった。
見た感じレディースもので中からはクリアファイルがちらりと覗いていた。
誰が座ってたかもわかんねーし、この人が思い出して取りに来るかも分からないから返しようがなくて仕方なくそれを手に取って席に座った。
名前とか、どっかに書いてあれば。
そう思って申し訳なさを感じながらクリアファイルの中を見てみるとそこには幾枚かの原稿用紙が入っていた。
レポートか何かかと思ったがどうやら違うようだ。
「…小説?」
タイトルは“無題”。
まだ決まってないのだろう。
名前は…どこにも書いて無さそうだ。
ちょっとだけ読んでみようか。
と思ったその時
『すみません、それ私のです…!』
息を切らした女性が俺の元にある原稿用紙を指さして言った。
その女性が
当時大学2年生のAだった。
『それ、読みました…?』
「いや、まだ…」
まだ、と言ってしまったことにハッとしつつ彼女のものを返す。彼女は小さく笑ったあとそれを受け取った。
『いつもここに来るんですか?』
「結構来る、よ」
『もし良かったらなんですけど…今度私の小説、読んで貰えませんか?』
その時聞いた。
Aの夢は小説家になることだ、と。
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さんご(プロフ) - パイナップルさん» うれしすぎます、、!なかなか更新出来ずすみません😭 (4月28日 22時) (レス) id: b4a1483ffc (このIDを非表示/違反報告)
パイナップル - このお話好きすぎる!お話作るのうますぎて尊敬しかないです( ^ω^ ) (2023年4月15日 15時) (レス) id: 37ab8ed271 (このIDを非表示/違反報告)
さんご(プロフ) - ななさん» 私の小説がななさんの目に止まってよかった😭すごくうれしいです、、!今回の小説は特に情景描写を事細かに書くのを意識してます。こちらこそこれからもよろしくお願いします! (2022年7月24日 9時) (レス) id: 435cdb899d (このIDを非表示/違反報告)
なな(プロフ) - 主様の小説いつも楽しく拝見しております!設定や表現などどこか切ない部分がたまりませんね……!これからも応援してます! (2022年7月23日 16時) (レス) @page2 id: e76489caef (このIDを非表示/違反報告)
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