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何気ない日の昼間、何時頃だっただろうか。
それすらも気にしていないほど日常の一時にカタン、と郵便受けに何かが入った音がした。
なにか頼んだっけ?
それともどこかからの手紙か。
なんとなく中身を想像しながら玄関に向かい、郵便受けからソレをとる。
届いたのは手紙だった。
でも役所とかからの手紙じゃなさそうだ。
オシャレな便箋に達筆な字で書かれた俺のへの宛名。
差出人は──────
「………A?」
確かに、何気ない昼間だった。
それだけは覚えている。
それが届いたのが何時なのかなんて、考えられるわけがなかった。
約1年前に俺の前から消えた彼女から、手紙が届いたのだから。
目をゴシゴシ擦ってみても。
部屋に戻って眼鏡をかけてみても。
差出人の名前は変わることは無い。
本当にあのAから手紙が届いた。
「…なんで」
ちょっと腹立たしいような、それでも嬉しいような。喜んでしまっている自分に腹が立っているような。
だってハッキリ言ったら俺は捨てられた立場。
大好きだったのに。幸せだったのに。
そう思ってたのは俺だけだったみたいで、ばかばかしくて………
あぁ、このことを考えるのはやめようってついこの間に心に決めたのに。俺の長期間の葛藤をまるで無視したこの手紙。
夢に向かって海外へ向かった彼女は1年以上音信不通だったのに、俺はすげえ心配したのに。なのに…。
なんて、色々考える前に中身を見よう。
適当に開けてやりたいところだがそれすらガキ臭くて癪で、結局ハサミを使って丁寧に開けた。
そこには宛名と同じく丁寧な時で1文字1文字刻まれていた。
〚キヨくん、お元気ですか?
連絡遅くなっちゃってごめんね。
私は夢を追ってこっちに来ましたが、最初は時差ぼけで大変でした。最近やっと慣れてきたよ。
英語もたどたどしいけど話せるようになってきました。
キヨくんの動画、こっちで見てるよ。
どの動画もやっぱり面白くて大好き。実はこっちの友達にキヨくんのファンがいたんだ。私まで嬉しくなっちゃった!
短いけど、今回はこれくらいにするね。
また手紙送ります。キヨくんも体調に気をつけて頑張って!〛
「…なんだよ、今さら」
俺の気持ち、なんも考えてねえの?
動画、見てたのかよ。大好きとか言うなよ。
「はあ…クソ」
俺はその手紙をテーブルに置いてマスクをつけた。
便箋なんて、買いに行かないと無いから。
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さんご(プロフ) - パイナップルさん» うれしすぎます、、!なかなか更新出来ずすみません😭 (4月28日 22時) (レス) id: b4a1483ffc (このIDを非表示/違反報告)
パイナップル - このお話好きすぎる!お話作るのうますぎて尊敬しかないです( ^ω^ ) (2023年4月15日 15時) (レス) id: 37ab8ed271 (このIDを非表示/違反報告)
さんご(プロフ) - ななさん» 私の小説がななさんの目に止まってよかった😭すごくうれしいです、、!今回の小説は特に情景描写を事細かに書くのを意識してます。こちらこそこれからもよろしくお願いします! (2022年7月24日 9時) (レス) id: 435cdb899d (このIDを非表示/違反報告)
なな(プロフ) - 主様の小説いつも楽しく拝見しております!設定や表現などどこか切ない部分がたまりませんね……!これからも応援してます! (2022年7月23日 16時) (レス) @page2 id: e76489caef (このIDを非表示/違反報告)
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