【文スト】ポートマフィアの人魚姫～second～ (ページ28)

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泡が七十八ページ28

「では、失礼します」

Aを送り届け、鍵を掛けたドア越しに赤城はそう云った。
あまりしない足音が遠ざかるのを聞き、Aはベッドに倒れ込む。少女一人には広過ぎるベッドだ。

「首領……」

ポツリと呟いた其の声が、自分のものとは思えない程寂しそうでAは訳が解らなかった。

八年前、両親が急逝し、全く見覚えのない男性に引き取られた。
釦の向こうの人、マフィアの首領、森鴎外。

Aに異能の一部を封じるように云い、今は其れを使わせる。
閉じ込めたがる割には、外に出させようともする。四年前の見逃しが良い例だ。
父のようで、父でない。

Aにとっての森は何とも奇妙な人物だった。

時折見せる眼差しが無性に腹立たしかった。
何を考えてるか解らなくて怖かった。

自分にとっての森鴎外とは、結局何なのだろうか？

Aは出口のないトンネルに入ってしまったように、ただじっと止まっていた。
考えたくない、こんな事。だのに考えてしまうのは

ーーーー本当に大きく成長されましたねーーーー

赤城の言葉と、其の顔に重なった森の顔。

厭でも考えずにはいられないのだ。
若しかして、若しかしたら。
其の先に紡ごうとした言葉は一体何だったのだろう？

否、今はそんな事を考えている場合ではない、とAはシーツに頭を擦り付けた。

「そんな事、あってたまるもんか」

自分に言い聞かせて、シャワーを浴びに浴室に足を運んだ。

「A、俺だ」

軽い叩敲の音が響いたのは、Aの髪が乾き切った頃だった。

「中也！！」

妙な思考をし続ける頭を止めてくれた其の声に、Aはいつも以上に喜んだ。

「何だよ、寂しかったのか？」

「そんな訳ないわ」

Aは揶揄う様に笑う中原を一睨みしたが、其の手に持たれた白い箱が目に留まり、途端に弾けた笑みを見せた。

「ケェキ！若しかして、姐さんとの用事って」

「ああ。何時も俺ばっか選んでても代わり映えしねぇだろ」

「別に毎回一緒の種類じゃないんだし、関係なくない？」

「良いンだよ。要らねえのか？」

「真逆！だって姐さんが選んでくれたんでしょう？」

「お前云ってる事が違うじゃねぇか」

「いいのよ、中也だから」

Aが悪戯に笑うと、中原も笑って彼女の頭を乱暴に撫でた。

「ったく、困ったお姫様だぜ」

「ふふ、もう慣れたでしょ？」

頭の上の中原の手を取り、其の腕に絡みつく。

「中也、私はこんな時間が大好きよ」