【文スト】ポートマフィアの人魚姫～second～ (ページ26)

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泡が七十六ページ26

「如何だい？調子は」

「あ……うん」

「そうかい、其れは良かった」

事件から3日後、漸く落ち着いた少女は首領室に招かれていた。

「名前は言えるかい？」

「海津、A」

「私は、森だ」

「森？あなたが釦のさきのひとなの？」

恐らく、緊急用に渡した機械の事だろう。

「ああ、そうだが」

「……して、如何して直ぐ来てくれなかったの？！」

叫びだした少女と、そして

「私は釦が押されたのを知って直ぐ来たよ。一度だけだった、間違える筈も無い」

突然喋り出した自分に驚いた。

「君の話を聞く限りだと押したのは君だね。なら海津君は押さなかったのか。考えられる理由としてはーー」

思考が丸出しになって仕舞うのを何とか止めたかった。
この先は彼女に聞かせる可きでは無い。

「私が信用されていなかったから。若しくは私の立場を知った上で呼出が邪魔になると考えた。他には私を頼った後の未来を良しとしなかった。又は其の全てだろう」

「じゃあ、私は、しちゃいけないことを、しちゃったの？」

「君の父親にとってはそうだったろうね。彼はーー」

「もういい！もうやめて！！」

少女が頭を抱えてそう云うと、森の口は喋ることをやめた。
冷や汗を流し乍ら、泣きじゃくる少女を見詰める。

想像以上に"強い"異能だ。
彼女が狙われて仕舞うことは仕方ないとして、理由付けに彼女がポートマフィアに引き抜かれる程の実力者であると周りに示そうと思っていたが、此れでは狙われる度合いが違ってくる。
亡き友の娘を守る為には、其の娘の自由を代償にするしかなかった。

「君、不思議な力は持ってるかい？」

「生きてる、物を歌で、操れる」

恐らく先程のは本人も気付いていない能力なのだろう。

「先刻私に何か喋らせようとしただろう？其れも君の力だ。だが今後一切其れは使ってはならない。私が許可しない限りね」

「どうして」

「此れからは君は私の云う事に従うんだ、いいね？」

其れは一二の少女に向けるような視線では無かった。
大の大人でも竦むほどの、絶対服従を命じる厳しい目に、彼女は頷く以外何も出来なかった。

「あれから四年。彼女も随分大人びた。海津君、君にはああ云って置き乍ら、私も親と呼ばれる様な者になれる自信は無くてね、全部空回ったよ。だが今、彼女は巣立ちを迎えた。少し寂しいが、私の抑圧より佳い方法で彼女を護ってくれる男の下にね」

森はふ、と儚げに笑った。

「却説、茶会に行こうか」