【文スト】ポートマフィアの人魚姫～second～ (ページ22)

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泡が七十二ページ22

「医師(せんせい)！匿って呉れ！」

形式上友達に成って数年後、必死の形相で海津が診療所に駆け込んできた。

「何かあったんですか？！」

「妻に追われている！！」

「はぁ？！」

「俺は妻が俺の逃走に気付くであろう五分前に家を出たんだが、彼奴！足が疾過ぎる！もう足音が聞こえてた！」

「彼方一体どれだけの距離を……」

「医師！そんな事を言ってる暇は無いんだ！」

「ええ、こんな事してる暇は無いの」

凛と、透き通った声が響いた。
其の透明さに、森は思わず息を呑むほどだった。

長い黒髪、潤んだ瞳。
整った容姿も相俟って、聖女か何かの様に感じられた。

だが然し、潤っている瞳は周りを乾燥させるほど冷たかった。

「其れで、如何したんです？」

負荷(ストレス)を吐き出してスッキリした顔をした妻と、草臥れた夫を前に森は尋ねた。
式は挙げなかったが籍は入れたと海津から連絡を受けていたし、何より二人の薬指で輝くリングが其れを証明していた。
見事に高価なダイヤモンドである。

「済みません。森さん、でしたっけ？」

「ええ」

「夫から話は聞いて御存知でしょうけど、私達は結婚して少し過ぎた位なんです」

「其の様に伺っております」

「然し、私には十二に成る娘がいます」

「はい？」

衝撃的な告白に森は息を忘れそうに成った。

「彼とその、まぁそう成った経緯も十二年前でして、」

「ちょっと待って下さい。海津君、確か彼方私とそう年齢変わりませんよね？」

「健全な証拠だろ！」

「私が可笑しいんですか？いえ、そうではなくて、私に馴れ初めの話をした時、つい先日会った様な感覚で話しませんでした？」

「実際は数日でそう成ったんだ。ただ仕事が忙しくて年に数回会うのが漸とで」

「その最初の年の数回でよく其処まで……」

森は頭が痛く成ってきた。

「そう成ると、奥さんは十二年もの間ずっと子供の存在を隠して？」

「ええ。彼の云う通り年に数回の逢瀬でしたし、仕事が忙しい彼に云うに云えず……。結婚するかも判りませんでしたしね。親戚の子だと偽って会わせてはいましたが……。其れで結婚して四年、家に帰れる時間を増やすと云うので、打ち明けたのです」

「成る程。然し海津君、最近特に忙しいのでは？」

「其処は数年前から交渉済みだ」

「そうですか。では驚いたのは判りますが、如何して此処まで？」

その一言で場が静まり返った。