【文スト】ポートマフィアの人魚姫～second～ (ページ19)

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泡が六十九ページ19

「姐さん！」

真っ先にAが反応し、女性ーー尾崎に駆け寄った。
様々な衝撃に中原は打ちのめされた気分になった。

「中也、無理矢理は良うないぞ」

「姐さん……忘れて下さい」

「今はセクシュアル・ハラスメントと云う言葉が流行っておってのう」

「う、」

とどめを刺された中原は地面に膝を着きたくなった。

「セクシュアル？」

「Aは未だ知らんか。本来はーー」

「姐さん！」

「何じゃ」

「俺が、後で」

「ほう、出来れば良いがのう」

クスリと笑う妖艶な美女には全てお見通しの様だった。

「それで、姐さんは何故此処に？」

「ん？それは……秘密じゃ」

尾崎は中原をチラリと見遣り、袖で口許を隠して笑った。

「俺が用事があって」

「呼んだクセに待たせた、ということじゃよ」

「う、済みません」

返す言葉もない中原である。

「そう云う事で私と中也は此れから用事じゃ。送りは赤城を呼んでおる。またのう、A」

「もう？久し振りに会えたのに」

「……まあ、のう。今度は当分会えぬかも知れぬ。我慢も大事ぞよ」

優しい視線を送り、Aの頭を撫でる。
其の手に懐かしさと寂しさを感じ乍ら、Aは一つ頷いた。

「ではな」

「ふ」

「如何したんです？姐さん」

「いや、中也がほぼ連日此のような店に一人通っていたのかと思うと、な」

尾崎と中原は洋菓子店に来ていた。
マフィアの拠点に近く、桃色で統一された可愛らしい内装が高い評判を呼んでいた。おまけに味も値段も一級品で、訪れるのは富裕層の婦女であったり小遣いを貯めた女子高生や女子大生などで、中原は浮いている事間違い無しだった。

「笑わないで下さい。俺だって解ってます」

「何も云っておらんぞ」

確信犯の顔で言われても信用出来ない。

「其れより、本当に私が選んで良いのかえ？」

「ええ、済みません。戻って来たばかりだと云うのに」

「構わぬ。探偵社では何もしておらんかったでのう」

尾崎はつい先日迄探偵社に捕虜として置かれていた。
同じ幹部クラスとは云え、中原にとって尾崎は自分と対等ではなく、上の人間だ。疲れているところを呼び出したのに、罪悪感があった。
しかし、それでも。

「それに、時間が無いのじゃろう？今日の昼が狙い目か」

「はい、姐さんにはお見通しですか」

「私ならそうする」

「失敗は絶対出来ません。最後の挨拶もさせてやれませんでしたが」

「餞別のケェキ、か」

尾崎は切な気に、笑った。