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泡が六十七 ページ17

最近は諦めて碌に思考もしていなかった所為だろうか。
Aは惘乎(ぼんやり)したまま浴室を出た。

(ワンピース)一枚と云う楽な服着替え、冷蔵庫から箱を取り出し、卓上に置く。

ご褒美。


「どうせなら、双人(ふたり)との――――」


云いかけて、止めた。
真っ白い箱はただ其処に鎮座しているだけだった。


「……戯言ね」


呟いて箱を開けると、見事な苺の乗った三角のショートケーキと、一枚、二つ折りにされた紙が入っていた。
中原のものだろうか、と開いてみると、


《A、元気かな?》


「太宰の、字……」


冷蔵庫で冷やされて冷たかった紙が、指先からの熱でじんわりと温かくなっているのが解った。


《此れを読んでるって事は、私は未だあの蛞蝓との縁が切れてないらしい。気持ち悪いね。驚くほど単純な思考のお蔭で君の手に此れが渡ったって事だけは感謝してあげなくもないけど、屹度私の頭脳の賜物だろうから矢っ張り止めよう。》


相変わらずの太宰に、Aはくすりと笑みを見せた。

大方、中原がAの為に甘味を買いに行くと予想して、マフィアの拠点に最も近い洋菓子店に先に行き、店員に中原の特徴を伝え、此の男が来たら箱に此の手紙を入れてくれと頼んだのだろう。
そんな事が出来るのかと云われればよくは解らないけれど、太宰の事だ、如何にでもなったのだろうと思う。


《却説、私の予想通りなら、中也が首領の説得に成功していて、私がAを連れ出す事に彼自身賛成している筈なのだけれど。計画を練ろうにも君と連絡がつかなければ其れを伝えようにも伝えられないしね、こういう手段を取らせて貰った。基本は私の連絡を待つだけでいい。君からの返信は中々難しいだろうし、危険だ。若し何か伝えたい事があったら中也に書いて渡すんだ。“味の感想を書いた”ってね。そうしたらほぼ私に手紙が渡るようになっている。勿論中也は知らないよ。
 これから厄介な事に大きな争いが起こる。ポートマフィアと私の所属する探偵社と、北米の異能者集団の組織とね。それに乗じて君を救い出す。待たせるばかりで悪いがもう少しの辛抱だ。君に会えるのが待ち遠しいよ。 ――太宰》


最後の一文に、動悸が少し速くなる。

中原と離れてしまうのは厭だ。
けれど。
けれど、太宰に早く会いたい。

手紙を握り締めて、Aは矛盾した願いを祈った。

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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2017年9月24日 9時

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