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「……A?」
『っ、はい』
突如聞こえた降谷さんの声に、ハッとして意識を現実世界に戻す。慌てて彼を見れば、彼は私のことを不思議そうに見つめていてその視線の先は私の手に向いていた。
追うようにそちらを見れば、右手に雑巾。横にバケツ。
どうやら私は邪念(?)を払う為に一心不乱に掃除をし続けていたらしく、いつの間にか降谷さんが帰ってくる時間になっていたらしい。
『ぇ、っと、これは、その……』
「……昼食は食べましたか?」
『……た、べて、無いです』
すみません、と謝れば降谷さんは私の視線に合わせるようにしゃがみこんだ。
いくら優しい彼でも今回ばかりは怒られる。まぁ私が悪いから文句の言いようも無いのですけれど。
目を瞑って怒声を待ち構えているが、いつまで経っても降谷さんの声は聞こえてこない。
どうしたんだろうか、とゆっくり目を開けた瞬間、降谷さんは待ち構えていたように私を抱きしめた。
「怒らないよ。怒らないから、そんな怖がらないでくれ」
『……はい』
「もう、君って子は。一人にすると不安で堪らないね」
降谷さんは私から離れると、困ったように笑う。
「A、掃除をしてくれありがとう。玄関に入った瞬間から、綺麗になってるのが分かりましたよ。時間が無くて掃除が出来なかったから有難いです」
『でも、降谷さんが作ってくださったご飯食べてないです…』
「夕飯に食べましょう。僕も君と同じものを作りますから大丈夫」
ぽんぽんと優しく私の頭を撫でる降谷さんは、本当に優しすぎて損をしないのかと心配になったが、彼に限ってそんな事ないか、と思った瞬間冷静になった。
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作者名:-naki- | 作成日時:2018年5月10日 15時