人生とは甘美である。Jun.M (ページ42)

今日:19 hit、昨日:28 hit、合計:229,570 hit

42 ページ42

「たった今、君は借金を払い終えた」

「嘘でしょ…」

「嘘じゃない。」

今までとは違う別の意味で私は言葉が出なくなった。

そりゃ確かに有難いのかもしれないけど、そうまでしてもらう理由なんて無くて戸惑っていたら、

「考えてくれていたから眠れなかったんじゃないのか？」

「考えたというか、何故なのか分かりません」

「…そうだな。何故と聞かれても何度聞かれても答えは同じだ。
自分でもコントロールできないくらい君を…
……君に惹かれてる」

そう言った松本さんの目は昨日と同じで全く嘘だとは思えない。

そして私も同じだった。

これが何なのか分からなかった。

初めてだったから。

松本さんに見つめられると動けなくなったり、鳥肌が立ったり。

近付いてはいけないと分かっているのに頭の機能がストップする。

さっき店に現れた松本さんを見た瞬間、全身で喜びを噛み締め思わず泣きそうになった。

もっと触れたい、触れてほしい、体にも心にも。

ぜんぶ初めてだった。

松本さんが初めてだった。

だから分からなかったんだ。

これだけ惹かれていく自分も初めてだったから。

そして今ようやく分かった。

潮騒の清顕の気持ちが。

これが恋なのだと。
いや違う。
正確にはもう恋では手に負えないものだと。

私と松本さんはもう既に走り出したのだ。
手にとるように欲に溺れていく。
甘く、衝撃に。