人生とは甘美である。Jun.M (ページ5)

今日:6 hit、昨日:19 hit、合計:229,576 hit

5 ページ5

幼い頃の思い出は。
とてもまぶしかった。
泥臭くて、汚れた場所でも温かった。

実家は小さな工場を営んでいた。
本当に小さな小さな造船鉄工所。
少なかったが、優しい社員さんたちもいて、
みんな空いた時間にはよく遊んでくれた。

父、母、私。３人で小さな家で楽しく暮らしていた。
だが世は今よりも不景気絶頂まっただ中。
もろくも父の会社は風に飛ばされるかのようになくなった。
借金を抱えて。
それだけ父と母は頑張ったのだ。
誰が悪いとも言えない、せいにもできない世の中で頑張ったのだ。

借金を工面するために、ひたすら父も母も働いた。
私と遊んでくれる社員さんたちはいなくなった。
学校でも私は孤独だった。

あるとき学校から帰ったら家の前に人だかりができていた。
幼い私は何が起きたのかも分からなかった。
私の家なのに入れてもらえなかった。

父は自身の手で自分の生涯を閉じた。
母は泣きながら私を抱きしめ続けた。
あの時の母の気持ちを考えると今でも胸が張り裂けそうになる。

幼い子供と借金を残して、愛した人が自分から去った。
父がいなくなったからと言って借金が減るわけではなかった。
母は強かった。
どれだけの深い悲しみに暮れようとそれを心の深い深いところに鍵をかけ
たくさんの仕事をこなしながら私の前では笑っていた。

母が大好きだった。
本当に大好きだった。
だから母がいなくなってから私は自身の未来をあきらめたのかもしれない。