人生とは甘美である。Jun.M (ページ35)

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…夢かと思った。

その姿が目に飛び込んで来た瞬間、思わず理由もなく涙が出そうになった。

嬉しさで胸がいっぱいになったから…。

そこにいるだけで静かな自信を漂わせて周囲の喧騒の中で、ただ1人目立っていた…。

私の身体の中にじんわりと熱っぽさが灯され、全身に鳥肌を立たせる。

目が合った瞬間、周りの話し声や笑い声が消え、あの社長室にいた時に戻ったように感じた。

2人きりの世界に。

「あら！松本さんじゃないの！
今日は1人で来てくださったの？」
とママが陽気に話しかける。

「はい。実は気に入ってしまって(笑)
つい来てしまいましたけど大丈夫でした？」

「もちろんよ！今日も相変わらず男前ね！
さっ、こちらへどうぞ」

たった今お客さんが帰られたばかりの奥の卓へ案内する。

私の前を通り過ぎる時、視線が交じり合った。
まるでスローモーションかのように。

「雅ちゃんしか今空いてないから、雅ちゃんでもいい？」
とママが私の方に振り返りニヤッと笑った。

そして私の方へ寄ってきて、「頼むわよ(笑)」と言ってママは自身の顧客のところへ戻っていった。

「…何になさいますか？」

気まずい雰囲気とその熱い視線に気付かぬフリをしてそっと隣に腰掛ける。