人生とは甘美である。Jun.M (ページ20)

今日:1 hit、昨日:8 hit、合計:229,712 hit

20 ページ20

急いで2人のウイスキーの水割りを作る。

その間もママと橘さんはいつものように変わらず楽しそうに話していて、松本さんは2人の話に相槌を打ったり、笑ったりしながらも、その目はずっと私に注がれていた。

マドラーでかき混ぜる手が震える。

その震えが一体どこから来るものなのか分からない。

怯え？恐怖？どこかそんなモノに似たような。

誰かと恋をしたことはなくとも、たくさんのお客様をもてなしてきた。

だけど。だからこそ。

今まで誰かに対して、こんな風に感じたことはなかった。

ただただ熱い何かが怒涛のように私の体内を駆け巡る。

その後も帰られるまで松本さんは、ママと橘さんのお話にただ笑ったりしているのに、心から笑っていないような、どこかそんな風に見えた。

……そして何度も私に注がれる視線に、私は気が気じゃなかった。

なんとか愛想笑いをして、とても長く感じるその時間を必死になってやり過ごした。

お見送りの際、いつも通り出口まで見送りに行き、お礼を述べ頭を下げた。

(…よかった、終わった)

ふと頭を上げたら、その瞬間松本さんが振り返り、

「…またね、雅さん」と言った。