微笑んだ理由 ページ41
(……そういえば。)
イナと喋っていてふと、前世の自分には弟がいた事を思い出した。死ぬ前は兄と母の事しか考えていなかったが、私には大切な弟がいる……いや、いた。
弟も優秀で、美形だった。兄は母親似、私と弟は父親似なんだと思う。
弟は私にだけ心を開いていた。よく、泣きながら私に抱きついてきた。私の事を姉様と呼び、敬語で話していたけれど。すごく慕われていた。
涙で服が汚れたのに、自分が頼られている事への満足感からか、少し嬉しかった。
父親がいなくなった時、私は12歳、弟は10歳だった。
そして、最愛の夫を亡くした母は、私たちに八つ当たりするようになった。
私はなんとか耐えることができたが、弟は体力がなく、さらには学校でいじめにあうという精神的苦痛を受け、ついには……
鳴り響くパトカーや救急車のサイレン。
無造作に貼られた立ち入り禁止のテープ。
怯える周囲の大人達。
キャーキャー騒ぐ女子高生達の心無い声。
ははっ、写真を撮っている人なんかもいたっけな。
地面に染みた弟の血。何故か、とても綺麗だと思った。
それと……
弟の、安らかな微笑み。
私の前でだって、あそこまで優しく笑ったことはなかったのに。
ねぇ、どうしてなの?
どうして死ぬ前に笑えるの?
私なんて怖くて死にそうで、何かの圧力におしつぶされそうだったのに、なんで?
弟がいなくなったことにより、今まで弟が受けていた分も私が虐待を受けた。
唯一の心の支えは、執事、かな。
夜はよく、母には内緒でホットミルクをくれた。
あの味は忘れられない。あの温もりも。
気づいたら書類チェックが終わっていたり、包帯が巻かれていたりいたのは、執事の仕業だ。
私は、お嬢様の執事で、幸せでした……
これが、彼の最期の言葉だ。
確か、母親が私に包丁を投げてきて……それを庇って……死んだんだ。
その時彼は、まだ20歳くらいだった。
可哀想に。
異性を愛することも知らず、苦痛の中死んだんだ。
私を庇って。
私があの時母の部屋に行かなければ。
いや、そもそも私が生まれなければ。
でも、彼も最期は
微笑んでいたんだ。
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うたプリ大好き?(プロフ) - 完結になっていますが、これで終わりなのでしょうか? (2021年6月29日 21時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - 分かります! 私もリムル様とディアブロ大好きです! 今後はディアブロもだしてみようと思います。 とても参考になりました。 そしてコメントありがとうございます! 今後もよろしくお願いします☆ (2020年1月12日 21時) (レス) id: ce3a9023ca (このIDを非表示/違反報告)
マリイ - リムル様とディアブロ大好きです ディアブロの名前私が付けたかったなぁ〜って思ってしまう← (2020年1月12日 19時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - 本当ですか!? 嬉しすぎます。 超ゆっくり更新ですが、ご期待に応えられるよう全力を尽くしますので、是非! これからもよろしくお願いします☆ (2020年1月9日 22時) (レス) id: ce3a9023ca (このIDを非表示/違反報告)
夢御神槌(プロフ) - すっごく面白かったです!!これからもがんばってください!!!!壁|ω・)ハイ ヒョッコリハン (2020年1月9日 21時) (レス) id: f59e7bfd64 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:彼方 | 作成日時:2019年11月16日 23時