5 ページ10
.
.
02：14：11
「…うー淋しいなぁ、しばらく会えなくなるなんて。
でも、絶対また遊ぶぞ！！」
荷物をまとめる私の横で騒ぐ、有紗の元気な声が胸に突き刺さる。
「治療でしばらく面会できない状態になる」と伝えるのが精一杯だった。
もう一生会えない、なんて口が裂けても言えない。
「……うん。頑張る、ね」
頑張ったことなんてあっただろうか。病気と必死に戦おうとしたことがあっただろうか。いつでもただなすがままに生きてきて、自分から変わろうとしない生活を送ってきた。その結果がこれだ。
「ちょちょ…まぁた泣いて！もう、ばいばいする時ぐらい笑ってよ！」
「……ごめんごめん！
じゃあ、また、いつか」
「駅まで送らなくてホントにいの？」
「もう全然大丈夫。本当にありがと！」
にっこり今できる最上級の笑顔を顔に張り付け、有紗の家を出る。
再び涙がこぼれそうだった。だから、振り向かずに前だけを見て、進んだ。
あと、2時間10分後には、私はこの世から消える。
…そうなる前に、行くべき場所がある。
.
.
ひっそりとした空気が淡々と流れているこの空間にくると、いつも気持がすっと冷える。
お母さんとお父さんのお墓の前で、静かに手を合わせ、静かに目をつぶった。
…お母さん、お父さん。ごめんなさい。必死に生きようとしないで、ごめんなさい。
数少ない思い出が、走馬灯のように駆け巡る。鮮明に、克明に・・・
バカな私。今さら生きたいなんて思ったってもう遅い。
無意識のうちに時計を見る。・・・あと5分。
死ぬって怖いのかな、痛いのかな。
私の記憶はどうなるんだろう？みんなにとって、私の存在は消されちゃうのかな。
考えても意味のないことばかりが思い浮かぶ。
どうやら長い間かなり考え込んでしまっていたようだ。
有紗、ごめん、とつぶやいた時だった。
ふわりと体が軽くなる。私にかかっていた重力が、すべて取り払われたようだった。
そして、一瞬にして頭が真っ白になる。
―――どうやら、私、消えるみたい。みんな、今までありがとう。
.
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 75人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「病系」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
BERU - すごく感動しました。私は大切な人を失うという感覚はわかりません。もし大切な人を失ったら私はその時何を思うんでしょう(＞＜)でも大切な人は失いたく無いです。これからも大切に毎日毎日生きていきたいと思います。 (2018年7月8日 20時) (
レス) id: b33c82a94e (このIDを非表示/違反報告)
柴崎 彼方(プロフ) - ive kanadaさん» コメントありがとうございます。読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m (2018年5月7日 0時) (レス) id: a8ce4c24a2 (このIDを非表示/違反報告)
ive kanada - 切ないですね。実は私も、昨年の夏に大好きな彼を失いました。辛いですよね。次の作品も頑張ってください。 (2018年4月29日 21時) (レス) id: d2d4448e52 (このIDを非表示/違反報告)
柴崎 彼方(プロフ) - 無気力零架さん» コメントありがとうございます！そうなんですか…(＞＜) (2017年4月3日 0時) (レス) id: a8ce4c24a2 (このIDを非表示/違反報告)
柴崎 彼方(プロフ) - 雷斗さん» 嬉しいコメントありがとうございます(*^_^*)頑張っていきたいとおもいます！ (2017年4月3日 0時) (レス) id: a8ce4c24a2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：彼方 | 作成日時：2015年3月26日 22時
