ファインダー越しの10年【不死川実弥】

我儘√ ページ16

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明日写真スタジオに行くという予定を聞いてすぐに浮かんだのは、Aの顔だった。



あの時の言葉は、未だ撤回する気はねェ。



けど、Aが忘れていたら…？



俺だけが馬鹿みたいにその時を待ち続けているなんてそんなことがあってたまるかよ。


急に不安のような焦りが頭の中を埋め尽くした。


俺はこの先暫くスタジオで写真を撮る機会が無い。
でも、あそこに行かなければ、Aと会うこともない。




「母さん、俺もついて行くわァ。」

「え？お友達と遊ぶ約束してたんじゃなかった？」



「あァそれ、無くなった。
　それに、玄弥見てやんねェとまずいだろ。
　アイツ、極度の人見知りだし。」

「そうねぇ。
　実弥が来てくれるならお母さんも助かるわ！」




ありがとう、と微笑んだ母さんを見て、少しだけ良心が痛んだ。


友達と遊ぶ予定はこれから断るし、玄弥だって、別に俺がついていてもいなくても、きっと撮影は難航するだろう。




どうすれば、好きな女の記憶にずっと留まることが出来るんだろうか。




俺だけが覚えてりゃ良いなんて、最初は余裕かましてたけど、本当は覚えてて欲しいし、少しでも間に受けて欲しい。

…なんて、ガキのワガママなのか？






《……して。
　お願い、この日を忘れないように…》



不意に聞こえてきたテレビドラマの台詞。



母さんが釘付けになっているテレビには、人気俳優と女優がキスをしていた。




「こんなの、忘れられなくなっちゃうじゃな〜い！！」



頬に手を当てながらドラマに見入る母さんを見ていると、視線に気付いた母さんが俺を見て微笑んだ。



「そうやって冷たい目で見てるけど、実弥もいつか分かる日が来るわ。」

「冷たい目なんかしてねェよ。
　親父譲りで目付きが悪いだけだっつの。」




バツが悪くなって俺は立ち上がった。




「あら、もう寝るの？」



あァ、とだけ返事をして俺は自分の部屋へと向かった。





布団に入っても目が冴えるのは、いつもより時間が早い所為だけではなかった。






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