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秒針を刻む時計の音だけが、静寂の中で奏でられていた。
今日だってオムライス作ってくれて、彼がいなかったら美味しいごはんもない。きっと普段の生活だって楽しくないし、親の代わりに愛情を与えてくれる人間だっていない。
エゴだってこともわかってる。でも、どうしても想いを捨て切れなかった。
「愛してくれた人はみんな、女の身体を思い通りにしたいとか、大した欲求があったけど」
「俺もその一人やとは思わんの?」
「それなら、既にお手つきでもなんでも出来たでしょ?」
それこそ風呂を覗くことだって、盗聴器を仕掛けることだって、夜這いだって。同棲までの関係になくとも、私は享受するつもりでいたのに。
現にこうやって学校に通うお金を出してくれていて、将来の夢を応援してくれていて、私のことを好きでいてくれている。
対照的に、実子を道具としてしか見ていない親なんて、こっちから願い下げだ。だから、だから
「私はね、マンちゃんを」
「勝手に人徳があるとでも?」
開眼した蒼色は、光に染まらずも輝いていた。
子供みたいな意見を述べるわけにはいかず、綺麗とも美しいとも声が出ない。
「そんなんやから雑魚って言われるんやで」
声は、出なかった。
人品骨柄卑しからぬ、以前までの繕った人格とは打って変わった、無情を帯びた幸せな顔を見た。
「Aちゃんは、愛されたい?」
「⋯⋯愛されたいよ」
「おれのこと、すき?」
「すき、だから」
ただ言葉を反響させるだけの雌に成り下がっていることは、この際もう既にわかっていた。
逃げたくなくて、逃げられたくなくて、自分の足は動かせなくて。
「じゃあ、明日の夜ごはんは、一緒に食べにでも行こっかぁ」
捨てられなかった。
安心しきって、肩の力が抜けてしまって、頭を撫でられてぐしゃぐしゃに顔を歪めるだけ。
「また、あした」
声が聞こえたときには、目の前にマンちゃんの姿はなかった。
ドアの鍵を外から閉める音がして、お見送りできなかった自分に嫌気が差す。
時間が心を落ち着かせてくれたとき、マンちゃんの質問について思い出していた。
前からずっと、ききたいことはあった。いざ言われると頭が真っ白になってしまう。
スマホのメモアプリを起動させて、次の機会に向けて指をキーボードに走らせる。職業、好きな色、好きな食べ物。あとは、そういえば、
「あっ、本名聞くの忘れてたな」
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かな(プロフ) - みかん畑さん» ありがとうございます!皆様本当に素晴らしい作品をお作りになりますよね!私も実は楽しみにしてます (2022年7月14日 7時) (レス) id: 849b27ce88 (このIDを非表示/違反報告)
みかん畑 - コメント失礼します!作品が凄く好きで見るたびに私はニヤニヤしてます! (2022年7月13日 23時) (レス) @page10 id: b9db204dbc (このIDを非表示/違反報告)
かな(プロフ) - 宮 村 。さん» ありがとうございます!!後の参加者様はもっともっと素晴らしい作品をお書きになるので是非最後まで見てくださると嬉しいです! (2022年7月10日 10時) (レス) id: 849b27ce88 (このIDを非表示/違反報告)
宮 村 。(プロフ) - 初コメ失礼致します!! もう好きすぎてやばい作品です(( (2022年7月9日 23時) (レス) @page4 id: e0cd2bb1c0 (このIDを非表示/違反報告)
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