にっこり消える/os ページ26
「ただいまー」
施錠してあった家の扉を開け、無人である筈の中に入り、また鍵をかける。
脱ぎ捨てた靴を揃えることもなく部屋に入ろうと思いきや、男物である一足の革靴が目に入った。靴箱に置いてあるような他の物と比べれば記憶に新しく、身に覚えのあるそれは管理が行き届いていることが一目瞭然なほどに、内玄関の照明に当てられ光っていた。
あの人来てるんだ、と呟こうと思った心の声は、目の前に現れた影を見て掻き消された。
「おかえり、Aちゃん」
「ただいま。今日もお出迎えありがとう、マンちゃん」
マンちゃんと呼んでいる彼の素性を、私はよく知っていない。
なんとなく分かるのは、彼は一般のサラリーマンのように振る舞っているだけの裏社会側の人間であるということ。血塗れで帰ってこられたとして、怒りもしないし理由を問いただしもしない。風呂に入れてあげるし、固まった血液はどうにかして洗濯で落とす。
日本のヤクザであれ、外国のマフィアであれ、世界掌握を目論む秘密結社であれ、一度招き入れてしまった客を見捨てて警察に相談しようともしない。
別にただの都合のいい女と思われているだけでも構わない。そう望んでいる訳ではないが、仲の良い彼を見捨てたいとは思わない。
もし、弱みを握られて協力体制を組めと言われても、出来る限りの対処法は見つけてあげたいと思っている。いち学生に可能な情報収集なんてほんの一部だけれど、なにかしらの救護はしてあげたい。
「Aちゃん、どうしたん?考え事?
学校楽しくなかった?」
現実に引き戻された。
「そうじゃないよ、これから文化祭に向けて準備期間になるから、帰り遅くなるかもなあって思ってて」
「やったら、俺がごはん作って置いとくようにするわ。
あ、今日はオムライスやで、Aちゃん好きやろ?」
「すき!ありがと、マンちゃん」
「どういたしまして、めう〜」
子供らしさを残し妖艶に笑う彼に本業なんて聞けば教えてくれるんだろうけど、聞く勇気もなければ一方的に話してもらえることもない。現時点で両者とも満足しているから、もうこのままでいい気もしている。
制服を部屋のハンガーラックに掛けてリビングに行けば、にこやかに笑うマンちゃんと、食卓に並んであった綺麗な料理と、上品に整えられた部屋とに感化されてしまって、どうも嬉しくなってしまう。
私って、なんてまあ、幸せ者なんだろうか。
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かな(プロフ) - みかん畑さん» ありがとうございます!皆様本当に素晴らしい作品をお作りになりますよね!私も実は楽しみにしてます (2022年7月14日 7時) (レス) id: 849b27ce88 (このIDを非表示/違反報告)
みかん畑 - コメント失礼します!作品が凄く好きで見るたびに私はニヤニヤしてます! (2022年7月13日 23時) (レス) @page10 id: b9db204dbc (このIDを非表示/違反報告)
かな(プロフ) - 宮 村 。さん» ありがとうございます!!後の参加者様はもっともっと素晴らしい作品をお書きになるので是非最後まで見てくださると嬉しいです! (2022年7月10日 10時) (レス) id: 849b27ce88 (このIDを非表示/違反報告)
宮 村 。(プロフ) - 初コメ失礼致します!! もう好きすぎてやばい作品です(( (2022年7月9日 23時) (レス) @page4 id: e0cd2bb1c0 (このIDを非表示/違反報告)
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