花の聲

三十二 ページ31

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厳かに響く祝詞を背に、俺達も忙しく立ち働く。

あの後光先生を迎えに来た宏太さんも、黒の紋付き袴でそれはそれは男前で。
何時もは洗い晒しの黒髪をきちんと撫で付けていると、精悍な面立ちが引き立つなぁ。
…ま、光先生を見た途端顔面崩壊したから、当然慧さんとそこ突っ込んだよね。
ちょっと立場忘れたのは反省だな。


女衆が料理や酒を運び、俺達は細々と雑事をこなす。時折、開放されてる大広間を覗くと、慧さんには何時かの山田屋の…涼介と言ったっけ…が張り付いてた。
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれているようで助かる。
俺と目が合うと、綺麗な顔を自慢げに反らしてくるのが堪らなく可笑しい。
その場に入れない俺なんかと、何を競いたいんだか。




涼介.


あいつまた覗いてる。

慧は全然気付いてないとこが、不憫で笑けて愉快だぜ。

無駄に見目がいいと思ったが、あれじゃ外見の無駄遣いだな。
花街でも行った方が余程日銭を稼げるってもんだ。

『涼介？あ、雄也だ』

しまった見すぎてた。
自分のせいで気付かれるとか最悪。
無邪気に手を振る慧にあっちは軽い会釈。おーお、可愛くて溜まらねぇってツラしてやがる。
慧は俺より三つも上で。うちの親父が言うことにゃ、あんな事故がなけりゃ今頃宏太兄さんの片腕になるべく働いてた筈だったんだと。
…まぁ、祝言(この)場で思い出す事でもねぇけどさ。
俺は当時小さかったから覚えてないが、歳が上がるにつれ聞かされた事故の話と本人の様子で、大体理解はしてる。
いつか俺が守ってやりたい。今はまだ子供でも、将来家業を継いで慧を…。


『ねぇ、ひか、きれい』

つんつん、と俺をつつくのがまた可愛いんだよ。歳上とは思えねぇ。

「なに？ああ、うん。綺麗だな」

このくらいなら書かれなくても会話が出来る。光先生を見る慧のうっとりした様子に、何気ない振りで持ち掛けた。

「な、慧は？慧もああいうの着て、俺のとこ来ない？」
『なに言ってるのー』
「いてっ」

思い切り背中叩かれた。笑うな。
てゆーか本気に取れよこら。

「ふざけてないぞ？」
『ふふふ、ありがとー』
「なぁ俺真面目に言ってる」
『あ、お餅きたよ！』
「って、おいっ」

祝いの紅白餅に負けてんのかよ…まだまだだな俺。

でも諦めねぇぞ、お前のこと。



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