46 ページ9
in.
「はー苦しっ」
収まった端から笑いが込み上げる。後で光に話してやろっと。
お茶を受け取りに降りてったやぶの部屋を、ぐるりと見回した。
開放してある窓からは自然の風が舞い込み、レースのカーテンを揺らしてる。
ベッド、机。クローゼット。
棚にはサッカーボール。
俺の記憶よりさっぱりと片付けられてるもう一つの棚には、見覚えのあるタブレットがちょこんと鎮座してた。
「まだあったんだ…」
高校時代使ってた端末は、埃も被らずそこにある。
おれはやぶを思い出すものを持ち続けるのが辛かったけれど、ご両親は息子の使っていた物を、こうして側に置き続けてる。
目には映らない違いを目の当たりにした気がして、そっと目線を外した。
手首に馴染んでるブレスレットをそっと撫でる。
誘われるままここまで来たけれど、やぶは何のつもりなんだろう…。
「お待たせ」
開け放しておいたドア向こうから、ひょっこり顔が覗いて微笑んだ。
「ありがと」
ごく自然にトレイを受け取り机に置けば、首を傾げる仕草がどことなく子供のよう。
「前にも…」
「え？」
「あった？こんなこと」
心許なさそうな彼に、「あったと思うよ」と答えた。
昔は学習机とは別にテーブルがあって、そこでよくレポートをしてた。
やぶが受け取ってきたトレイを、俺が更に受け取りポットからお茶を注ぐ…みたいな流れが出来てたから。
「そっか」
「そう。はい」
ホッとしたようなやぶに大きめのカップを渡せば、くしゃりと笑って受け取った。
そんなとこもね…あの頃とおんなじ。
「この香りも懐かしいな。やぶんちのお茶っていつもこれだったんだよ」
「へぇ？そうなんだ」
目顔で応え、ゆっくり口を付けてく。
広がる懐かしく優しい味。立ち上る湯気が涙腺を叩いた。やば…泣けてくる。
「っあ」
引き寄せられ、腕の中に収まって見上げれば。
「ゃぶ…っん…」
カップを取り上げられ、今度は邪魔(？)もなく重なる唇。
甘く柔らかく吸われ、緩やかに応えなから
「ゃぶぅ…」
「俺が覚えていなくても、おまえがそれを教えてくれるんだ。ありがとう」
何て言えば言葉に詰まってると、
「待ってて」
密やかな囁きと共に身体が離れる。
立ち上がったやぶが、机の引き出しから取り出して翳したものを見て。
胸が大きく跳ね上がる。
小振りの箱。
微かな音がして開いた箱の中に入っていたのは、傷一つない
ブレスレット。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 268人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夏夢(プロフ) - 黄色いうさぎさん» 黄色いうさぎさまはじめまして☺️わぁ、何度も読んで頂いてるんですね☺️ぉ、おおぅ旗部屋リピートも(恥(／▽＼)ｷｬｯ)💦こちらこそありがとうございます😆励みになります💕 (2022年9月14日 12時) (
レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
黄色いうさぎ(プロフ) - こんばんは、始めまして夏夢さん。夏夢さんの作品を定期的に読み直しています。回路…や尾行シリーズも好きです。旗部屋も😁どれも素敵なお話達、やさぐれた私の心を癒やしてもらってます。ありがとうございます (2022年9月13日 22時) (レス) id: ef1652ec47 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - ちぃちゃんさん» ちぃちゃんさま、拙話を寛ぎのお供にだなんて、恐縮でございます😆ありがとうございます(照)💕子狼くん、またお目見えしました時は遊びにきてくださいねー😊💕 (2022年5月3日 16時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
ちぃちゃん(プロフ) - 連休で時間がたっぷりあるのでシリーズ読み返していて、「回路…」の薮伊野にキュンときました。 薮伊野大好きですが子狼くん達のお話も大好きで読み返してはやっぱり作者さんの紡ぐお話大好きだなと改めて思いました。 (2022年5月2日 20時) (レス) id: bdaf2a3994 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - ましろさん» 食べられてしまいましたねー(^-^;そうなんですよ、お話の肝なのにさくっとし過ぎてしまいまして…これは覗き見案件なんでしょーか(￣▽￣;) (2021年2月19日 20時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夏夢
| 作成日時：2020年3月20日 23時
