八十 ページ33
雄也.
「慧さんっ」
呼び掛けに、見開くように開かれた瞳は怯えに彩られ、何も映さない。
あいつら…何処までも許せねぇ。こんな…こんな顔をさせやがって…！
(いや、今それじゃない)
落ち着け、俺がこの子を怖がらせるな。
「慧さ…っ！」
蕎麦殻の入った枕を投げ付けられたが、
…よし。
短く気合いを入れ、寝台の壁際に後ずさる彼を、布団ごと掬い上げた。
『ひゃあ！いやぁあ！』
空を切るばかりの叫びを迸らせる彼に向かい、「けい」と力強く呼び掛ける。
「慧、けい。俺をよく見て」
怒鳴り声にならないように、押さえて呼ぶ。これ以上熱が上がらないよう、動きは布団で封じた。
「慧、もう大丈夫、俺を見て……」
ただそっと、そうっと。
低く優しく、あやして。
彼の目が俺をちゃんと見るまで、ずっと名前を呼び続けた。
やがて大人しくなった布団…もとい、慧さんを、改めて覗き込んで。
『ゅぅゃ……？』
「はい。俺が判る？」
こくこく頷くと、くらりとしたのか顰めっ面となった彼に苦笑いしてれば、「けいー？ひかは判るぅ？」
ぅわ驚いた。いつから居たの。
後ろからひょいと顔を出した光先生に思わず仰け反ると、交代、と俺から慧さんを受け取った。
「よーしよーし怖かったね。でも雄也が助けてくれたから、もう心配ないよぉ？ね？雄也」
振り向いた光先生に倣い、こっちを見てくる彼に力強く頷く。
「はい。俺がいます。慧さん」
迷いなく言い切った。きょとん、と見返してくる慧さんの横で、光先生が『ほぅ』と口をすぼめてる。
「…惚れるねぇ」
「光せんせい…」
そんなニヤニヤしないで下さいよ。
言おうと吸い込んだ息は、バタバタと騒がしい足音に妙な節付きで吐き出される。
パシン！と勢い良く開いた襖に、俺は天を仰ぎ、光先生はこの上なく無遠慮に見据えてみせた。
「うるさいよ宏太」
「けいっ！慧ぃいっ」
「判ったから静かに。ほら怖がるよ」
『こぉたっ…』
「もう大丈夫、大丈夫だからな！」
ぎゅうぎゅうにされて目を白黒させる慧さんと、有無なく座を奪われた光先生…は、もう笑いを堪えきれないでいる。
「許してやって。さっきまで男前…じゃなかった、色々処理していたからさ」
「ええ勿論です…さぞやご心配だったでしょう」
なんて、外面よく愛想笑いしてはみたけど。
いいとこ総取りって…それはないよなぁ…宏太さん。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 402人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夏夢(プロフ) - ましろさん» はぃい(^^;元気な爺様ですわwさーて坊っちゃんが先か、紫さんが先か。次章で何とかなればいいんですけども(^^;移行先でもまた遊んでくださいね〜(*^^*) (2021年6月13日 20時) (
レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - たくさん更新〜♪ ご・隠・居・さ・まったらぁ(≧∀≦) どんだけ浮かれてるんですか(もっとやってよくってよ) 坊っちゃんそろそろ限界ですかね？ 使用人お三方、良い味出してる〜！続き楽しみです(^-^) (2021年6月13日 12時) (レス) id: 8371985186 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - みるみるみるきーさん» スキップ、って素直に書けたら楽なんですけどねぇ(日本語縛りの壁w)ひか先生も通ってきた道なんで、慧ちゃんの気持ちがよくわかるのかもw次章もぜひ遊びに来てくださいね〜(*^^*) (2021年6月13日 8時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - きたきたきたー！更新ーー！！やはり、そうだったのか！ひか先生さすがだわー。御隠居は絶対スキップしながら言いふらしてんだろーなー。女三人の会話も…いやぁ、色々気になるわー。移行先、どんなことになってるかなぁ。楽しみすぎる！ (2021年6月12日 19時) (レス) id: a47283bf22 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - みるみるみるきーさん» 大ちゃん益々隠密めいてきたですwwwそんでねみるさま、そこはほら、これからに繋がるのよぉおお( 〃▽〃)気合い入れて頑張るぞっ( ≧∀≦) (2021年5月24日 19時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夏夢
| 作成日時：2019年8月29日 8時
