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「…りりむちゃん、わたし、体育着忘れた」
「え"!?」
「朝、玄関に置いて、そのまま……」
「ええぇ!」
「誰かに借りないと、だけど、今日他クラス体育ないよね…」

他クラスの友達のスケジュールを思い浮かべる。しかし体育着を持っていそうな人は誰1人としていなかった。

「まって、どうしよう…体育科に借りるにしてももう時間ないし…」
「んぇー、りりむ見学だから持ってないよ〜!」

忘れ物は絶対にしないよう気をつけていたのに、何で今日…!
時間も無い、体育着もない、解決策もない、そんな三拍子に思わず頭を抱えたその時

「Aちゃん頭抱えてどうしたんスか?」
「…伏見くん」

廊下に面する窓から、金髪を後ろで一括りにした男子生徒、伏見ガクが私たちを覗き込むようにして身を乗り出してきた。

いや違う、今欲しいのは伏見くんではなくて体育着…

「Aね、次体育なのに体育着忘れちゃったの」
「えっ、大変っスね、貸しましょうか?」

「えっ!?伏見くん体育着持ってるの!?体育あったの!?」
「いやぁ、明日のはずが間違えて今日持ってきちゃってぇ〜、洗濯したばっかりだし、綺麗だと思うけど、いる?」
「いるいるいる!貸してください!今度何か奢らせてください〜!!」

まさに救世主!!と窓枠越しに伏見くんに縋りつけば、彼はギャハハと何やら下品な笑い声を上げた後、「待っててください!」と走り去った。


「っはい、身長的に大きいかもしれないけど、裾折るとかして何とかしてくれよな」

と、3秒後体育袋を持って現れた。

「うぇーー!伏見くんほんと神さま!!ありがとう!!じゃあ私着替えてくる!!本当ありがとう!!」
「はーい、お礼はデートでお願いするッス!」
「無理言わないで!」

カラカラと笑って手を振る伏見くんに再度お礼を言ってから、私は廊下を走り出した。

「ごめんりりむちゃん私お昼抜く!着替えたら体育館前で待ってるからゆっくり来て!」
「りょーかい!」

伏見ガク、なんていい人なのだろう
タイミングが良すぎる男、それが伏見ガク。素晴らしい。

心の中で彼をベタ褒めにしながら更衣室へ走っていた私は気がつかなかった。


「とやさーん、彼女さん、随分ガードが甘いッスけど、いいんスかぁ」
「はぁ?ガッくんなんかしたんですか?場合によっちゃ許さねぇけど」
「あはは怖いなぁ、実は…」


伏見ガクという男が、いかにタチが悪いかという事に。

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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時

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