嘘つきカップル (ページ35)

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デスクに置かれたデジタル時計が23:00へと数字を近づけていく。55秒。56秒。57秒。58秒。59秒。

「…十一時」

そう呟いて枕元で充電器に刺さるスマホをみやった。画面は真っ黒。なんのメッセージも来ない。そりゃ、ピッタリにメッセージが来るなんて、期待していたわけではないけれど、心はそわそわと忙しない。
しかし自分からメッセージを送ってもいいものなのか、彼は私に協力してくれる身で、私は協力してもらう身。それを催促するような形になるのは本意でない。どうするべきか、首を捻ったその時、スマホが振動した。

"すみません。諸事情あって、通話23時半からでもいいですか？"

思わず肩を落とした。
諸事情。なんだろう。彼が何か失敗するイメージは湧かないから、予期せぬトラブルでも起こったのだろうか。

"大丈夫だよ"

そんな言葉を打ち込み、送信した後すぐに送られてくるスタンプ。狐が手を合わせている、ごめん!と文字のついた可愛らしいスタンプ。

「…ふぅ、」

ため息をついた。
通話が遅れて解けた緊張から？それとも彼の声を聞ける時間が短くなったことへの落胆？

多分、どちらも。

でも、きっとそれを脳で理解して仕舞えば、この気持ちに気がついて仕舞えば私は彼と今のままではいられない。

だから、

「小説、読もう」

携帯を置いて代わりに文庫本を。
「キミには抗えない」平凡な女の子が学校の人気者恋をしてその恋を成熟させるために奮闘する。そんな、下世話なタイトルの下世話な恋愛小説。
間違って購入してしまったけれど無駄にするのはお金が惜しく時間を見つけては読み進めている。今はちょうどヒロインの相手役、いわゆるヒーローが自分の気持ちを自覚したところ。
「そっか、俺……」そのセリフの先は書かれていない。なんで？きっと、口に出してしまったら今までの自分を保てなくなるから。

「…やだななんか」

下世話だ下世話だと思っていた小説のセリフの意味を深読みして挙句に共感してしまうなんて、不快だ。いや、何をひとりで自分勝手な。やっぱり何もせずに待っていよう。小説を閉じて、本棚へ。またベッドに戻って仰向けに。目を瞑って数を数えて。

1
2
3
4

5

6

7

8

9

ヴーッと震えた携帯に勢いよく起き上がった。液晶には彼の名前とその横にメッセージ。

"遅れました。通話、できます"

"私も、できるよ"

そのメッセージを送った直後、携帯が小刻みに震え始めた。