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目の前の彼女はあからさまに表情を固くした。

分からないのなら聞いてしまえ

それが、2週間かけて出した僕の答えだった。
彼女は確実に何かに悩んでいる。それも眠れなくなるほどに。僕は彼女のぼんやりとどこを見つめているか分からない目と表情の抜け落ちた顔をここ数週間で幾度となく見た。
顔は白く、目の下には化粧で隠しているらしい、しかしよく見れば明らかに青黒く染まった隈。本人は暑いと言うのに冷たい手。確実に寝不足の症状だった。
僕が部活を終えて彼女の教室に向かえば、先ほどまで眠っていたのか側頭部の髪を崩した彼女が息を切らし、だらだらと尋常じゃない量の汗をかいて僕を見つめたこともあった。すぐに「怖い夢を見た」と誤魔化されたけれどそれが全てでない事は明らかだった。

自分の中である程度辻褄の合った仮説を立てるまで触れないでおくつもりだった。下手な探りを入れて折角ここまで築いた関係を、そんなに良い関係と言い切れる訳もないのだけど、崩すのは嫌だった。
だけど、日に日に目に見えて弱っていく彼女に触れないのは、好きな人を想わないのは無理な話で。ついに今日、僕は彼女の心に踏み込むことを決めたのだ。

「…悩み?私、悩みなんて何にも無いよ?」
「それが通用するとでも思っていましたか?」

びくり。彼女の肩が震える。
いけない、怖がらせてはいけない。あくまでも優しく、彼女に寄り添う形で。彼女にとって友人でもなければ本当の彼氏でもない、そんな曖昧な立場にいる僕だから詰めることのできる距離まで。
一歩、踏み出せば彼女が下がる。二歩、踏み出せば彼女の顔が恐怖に染まる。
両手で肩にかかるスクールバッグを掻き抱いた彼女の、細い手首に優しく触れた。跳ねる体。俯く顔。震える手。

ここまで、怯えておいて悩み事がないなんて嘘、よくつけたもんだ

ある種の苛立ちのような何かが頭の中でいくつか弾ける。もう、そこからは感情任せだった。ぐい、と彼女を近づけ腕の中に閉じ込める。突然のことに身をよじる彼女をきつく抱きしめ「大丈夫、怖がらないで」なんども、なんどもその耳に注ぎ込む。ついに彼女が動きを止めるまで。

「…Aさん、あなたの悩みはあなただけのものです。だけどそれが原因であなたが苦しんでいるのを目の当たりにして平気でいられるほど僕は非情じゃない。全てとは言いません。けど、本当に辛くなった時、耐えられないと思った時くらい、頼って欲しいと思うんです」

ふ、と彼女の体から力が抜けた。

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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時

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