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じわじわと赤みを帯びていく彼の耳と首。細く綺麗な眉尻が困ったように下がる。
今日の刀也くんは何かがおかしい。いつもの彼ならこういう時、きゅるりとその瞳を丸めたあと悪戯な笑顔を浮かべるのに。それならば、私も首を傾げるだけですむのに。
それなのに、まるで恋を自覚したばかりの初な中学生じゃないか。今日に限ってそんな顔をされてしまったら。いや、そんな顔をされるから今日なのか。なんにせよ、そのどろりと溶けたエメラルドは私の頭まで溶かされてしまいそうで。私にはどうにもあますぎる。
「…はやく、買っちゃおう?」
「…Aさんは何か、買わないんですか?」
苦し紛れに発した言葉は、返ってきた返答によって詰まってしまった。途端、甘く感じていた空気が排気ガスで汚れた駅前の空気に早変わりする。
「私の家、親が厳しいから、コンビニとかファーストフードとかでもの食べると怒られちゃうんだ」
「…へぇ、そういう家庭、今どき珍しいですね。三歩歩けば四つはファストフードかコンビニの世の中なのに」
「じゃあ、コンビニ寄るの初めてだったりします?」なんてすっかり元の調子を取り戻したらしい刀也くんはお目当てのカフェオレを手に取る。
「入ったことは流石にあるよ。りりむちゃんとか良く寄るし、肉まんなら、一回だけ食べたことある」
「へぇ、肉まん」
「うん、半分こだったけど」
「それは、りりむと?」
「…ううん、おとうさん」
「お父さんと半分こですか、仲良いですね」
「もう、5年も前のことだけどね…」
「また、すれば良いんじゃないですか?」
きゅうと、胸が締め付けられる気がした。胸元から迫り上がってきた熱が目頭で溜まる。
まだ、小さかったあの時。母親のコンサートを見た帰り道。私の手とは似ても似つかない大きくてゴツゴツしたあの手から、私には大きすぎるからと半分に割られた肉まんを受け取った。
初めて食べた出来合いのそれはやけに美味しくて、暖かくて。それは、秘密な、なんて目尻に皺を寄せたあの人との、最後の思い出で。最後のぬくもり。
「…できたら、いいねぇ」
肯定も否定もしたく無くて、曖昧な答えをこぼした。
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時