嘘つきカップル (ページ15)

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ううん、大丈夫だよ

桃色の唇に微笑みを載せた彼女の下瞼には、うっすらと隈が滲んでいる。
僕とりりむが言葉を交わしている間、ぼんやりと虚空を見つめるように頬杖をつく彼女に話を振れば、彼女ははっとしたように顔をあげた。

どうしたってその様子は大丈夫に見えないのだが、彼女の笑みはその事を追求させないような緊張が染み付いていた。

「今日は早く寝るようにするよ」

にっこりと愛らしく、ただやはりどこか硬い笑顔に、ふと、目の前のこれと似たような笑みを浮かべた彼女を知っている、と思い出した。

確か、1年前。そうだ、ちょうど1年前のこのくらいの時期だった。
ようやく新しい環境に慣れ始めた僕たちは文化祭という、初めての高校生らしい行事に少なからず浮き足立っていた。そんな中、彼女、須永Aは浮かない顔をする事が多いように見えて。

…あの時も声をかけたんだ。

「最近元気ないけど、何かありました？」

びくりと体を揺らした後、彼女は今みたいに固い笑顔を浮かべたはずだ。

「ハマってる小説がクライマックスで、そればっかり考えちゃうんだ」

確か、そんな理由。
あきらかにおかしいだろう、と思った気がする。内容というよりも態度があまりにも、ぎこちなかったから。

そうして、その後どうしたんだっけ。

文化祭のクラス企画では一年生ながら全学年で来客数、投票数共に1位を獲得。クラスの中でも人一倍頑張っていた彼女は皆んなに囲まれていて、その時は…その時は随分と柔らかい笑みを浮かべていた。

そうだ、その笑みに安心した時だった。
彼女は倒れて、クラス委員であった僕は先生と共に彼女の付き添いとして保健室へ向かったのだ。

彼女の、先ほどの笑顔は、あの時のものによく似ていて、、。

ぞわりと背中を走った嫌な痺れに自身の教室へ向いていた足を止め、振り返る。

「っAさん！」

数秒前まで一緒にいた彼女の元へまた戻り、両手を使いその頰をがっしりと、しかし優しく包み込む。

「あんまり、無理しない事。いいですね」

ぽかんと目をまるくさせた後、彼女は崩れるように眉を下げ、ずいぶんと控えめに口角を上げ、笑った。

「刀也くん、ほっぺ触るの好きだねぇ」

泣き出しそうに切実な声。遠い星の瞬きのような、寂しげに震える声。

「…はやく行かないと遅刻しちゃうよ。ほら、いってらっしゃい」

そんな声を背中に僕は何度も振り返り、そのたびに手を振ってくれる彼女に見送られ自クラスへと歩みを進めた。