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「須永さん、ちょっといいかな」

昼休み。突然響いた声に騒がしかった教室が静まり返った。
お弁当箱の蓋を開けようとしていた手を止めて、振り返ると、そこには男子生徒がいた。スリッパの色は青。2年生だ。

「どうしたの?」
「…話があるから、一緒に中庭まで来てほしくて」

キャアッと、教室にいた女の子達から黄色い歓声が上がった。

「…いいよ、いこっか」

お昼を一緒に取ろうと約束したりりむちゃんに、「ちょっと行ってくるね」と伝え立ち上がる。後ろから「浮気だめだよ〜」なんて声が聞こえたが、それは聞こえないふりをした。
 


「…話って何かな?」

人工の青芝で作られた中庭には、春特有の甘い風が吹いていた。私はそんな風を吸い込みたくなくて、息を潜める。
普段、人気のない中庭は南校舎と北校舎に挟まれておりその両方の廊下から丸見え。

それにここは、有名なのだ。

「須永さんのことが好きです、付き合ってください!」

告白の場所として。

今も人の恋路が気になる見物人がぞろぞろと窓辺に集まってきている。そちらへ視線を向けた私は、北校舎の廊下に集まる生徒の中に光るエメラルドを見つけた。じぃ、と彼が私を見つめている。息が詰まるような感覚がした。まるで、いけない事をしてしているような、そんな気持ち。

「須永さん…?」

フッとそれから目を背ければ、目の前には私を呼び出した男子生徒がいて、あぁ、そうだったと現状を思い出す。

「ごめんなさい、付き合ってるひとがいるので…」

そう言って頭を下げると、目の前の彼はすこし困ったように眉を下げた。

「ごめん、知ってた」
「…それは、噂でかな?」
「うん、剣持と、付き合ってるって」

彼の言葉に私は苦笑いをこぼす。噂とはなんと速いスピードで広まるんだろう。その噂が真実となったのは、噂を流した私と彼がそういう関係になったのは、つい1週間前であるというのに。

「そっ、か。ごめんね、」
「いや!こちらこそ」

私の謝罪に彼は慌てて両手を振りそう言う。そうして間髪入れず「じゃあ、またね!」と声を張った後、南校舎へと続く渡り廊下に駆けていった。それに合わせて渦巻いていた観客が幕を引くようにいなくなっていく。

「ふぅ、」
「やっぱりモテますね」

いなくなった大勢に、思わず溜息が出た。そうして、次に後ろから聞こえた声に、耳をくいと引っ張られる。

「…刀也くん」
「こんにちは、Aさん」

振り向いたそこで、彼、剣持刀也は綺麗なエメラルドを細め、優しいような皮肉なような独特の微笑を浮かべていた。

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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時

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