♭君の教育係の適任者 ページ10
みんなの脳裏に、滅茶苦茶口が悪い少女が浮かぶ。
海賊らしいと言ったらそれまでだが……うん、なんか嫌だ。
「せっかくこんなに可愛いのに、おれ達のせいで口が悪くなっちゃ可哀想だ」
確かに。
「という訳で、誰か一人、ウタに言葉や勉強なんかを教える“先生”になってもらおうと思う！」
「先生？」
満面の笑みのお頭。
「そうだ。
おれも出来るだけウタを見てやりてぇが、そう簡単に動けないときもある。」
お頭の声にみんな首を縦に振る。
「二日酔いとかな」
「副船長に締められてる時とかな」
「Aに毒吐かれた時とかな」
肯きは大きくなる。
『何でそこで僕の名が挙がるんですか……』
「普段を思い返してみろ」
ちょうど隣に居たホンゴウさんが僕の呟きを拾って答える。
なんて言い草だ。
あのくらいで落ち込まれちゃ堪らない。
『僕は間違ったこと言ってませんけど。
お頭がうたれ弱いだけでは』
「うん……そういうとこだぞ、お前。」
失敬な。
ちゃんと言う相手や言い方は選んでるつもりだ。
例えばガブとかにはもう少し優しくしている。
「それを少しでもお頭に分けてやれよ」
『は？嫌ですよ、あの人すぐに調子乗るんですから』
そう言うと苦笑いを返された。
「まぁ、ともかくだ。
誰か適任はいねぇか？」
互いに顔を見合わせる。
この船にはコックや狙撃手、医者、航海士……様々な役職の専門家が乗っている。
がしかし、あくまで僕達は海賊だ。
教師や保育士が乗っている訳もなく。
全員からウタに構ってやりたい、教えてやりたいという気持ちはヒシヒシと感じるが……
「おれはどうだ？」
名乗りを上げたのはパンチさん。
確かに彼は面倒見は良いが……
「お前、書類整理苦手だろ。
ウタに計算とか教えてやれるのか？」
あえなく撃沈。
一番出来そうなのはやっぱり船医のホンゴウさんとか副船長だろうな。
問題はその二人はこの船でも一、二を争うくらい忙しい人達だということ。
「Aは？」
『へ？』
不意に耳に入った自分の名前に頭での認識が追い付かない。
Aって僕だよな？
『え、何言ってんですかライム』
発言者のライムジュースの意図が分からない。
「あ？お前ウチで一番、書類整理得意じゃねェか」
おれもよく手伝ってもらってるし。
そう続けたライムに至るところから同意の声が挙がる。
『い……やいや、無理ですって！
僕に教育係だなんて……子どもの面倒とか見たことないし』
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作者名：凍ったライム | 作成日時：2022年10月1日 0時
